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診療内容 医院紹介 院長紹介 コラム 脳神経疾患あれこれ ともも チェック診断 学会カレンダー ネットワーク ご意見 トップページへ
疾患リスト
糖尿病と認知症
神経内科とは
パーキンソン病について
首が左右に振れている。治療法は…
パーキンソン病 他に治療法は
新しい薬が次々と登場 あきらめないで前向きに、活動的に
30周年おめでとうございます
顔面神経麻痺
栄養障害により汎血球減少をきたした在宅患者の2例
認知症の理解と多職種連携
パーキンソン病の最近の話題
「痙性斜頸」注射や手術で症状を緩和
認知症を抱える家族へ(アドバイス)
長期の経管栄養と血糖管理 〜経過とともに血糖値上昇をきたした1例〜
認知症のはじまり
当院で経験した発作性運動誘発性舞踏アテトーゼの3例
頭痛のあれこれ
〜こわい頭痛とこまった頭痛〜
認知症の知識
〜アルツハイマー型認知症の話題と当院の認知症診療から〜
パーキンソン病の日常生活とリハビリの注意点
手足のふるえでパーキンソン病を疑うとき
神経内科をご存知ですか
顔面神経麻痺
注意を要する頭痛
在宅の胃瘻管理でちょっと困った経験
西宮市歯科医師会による「無料在宅歯科健診」の利用経験
当院で経験した胃瘻・腸瘻患者44例の検討
多職種の介入で経口摂取が可能になった 重症筋無力症の1例
『誤嚥性肺炎について』
認知症患者の服薬管理をめぐって 〜当院の経験から〜
脳卒中の「病→診」連携を考える 〜当院の経験から〜
当院で経験した筋萎縮性側索硬化症27例の検討
神経内科の立場からの摂食・嚥下障害への対応
在宅難病患者の備え 〜在宅神経難病患者の実際と問題点〜
摂食嚥下の基礎知識・認知症について
シャルコー膝関節を伴った脊髄癆の1例
当院における在宅経管栄養患者の検討
神経内科からみた摂食嚥下障害
神経内科からみた摂食嚥下障害
神経内科からみた摂食嚥下障害
当院で経験した中大脳動脈閉塞の2例
パーキンソン病と腸閉塞
在宅胃瘻患者の現状と問題点
パーキンソン病とジェームス・パーキンソン先生
一般診療所による神経難病の訪問診療
当院で経験した筋疾患12例の臨床的検討
ワーファリン処方とその疾患
神経難病の在宅診療−当院の経験から−
市中医療機関における片頭痛患者の臨床的検討
神経難病の在宅診療
「頭頂骨菲薄化」、
「頚椎後縦靭帯骨化症」
在宅ケアの立場からみた摂食嚥下障害
地域における難病患者の療養生活支援について
神経難病患者の訪問診療
「猪首」と「なで肩」
パーキンソン病
二次性パーキンソン症候群のあれこれ
在宅医療ことはじめ
『摂食嚥下障害』を取り巻く問題点
神経難病と嚥下障害
脳卒中と嚥下障害
回転性目まい
延髄外側梗塞と嚥下障害
外科系のためのパーキンソン病のはなし
嚥下障害の基礎知識
筋萎縮性側索硬化症(ALS)について
パーキンソン病と薬のはなし
めまいについて
脊髄小脳変性症

 糖尿病と認知症

本稿は、兵庫県脳神経外科・神経内科診療所医会会報誌‘ニューロレター Vol.7’の原稿です

つちやま内科クリニック 土山雅人


最近、認知症と生活習慣病の関係が注目されています。特に糖尿病との関連を見ると、糖尿病がある人では認知症の半数以上を占めるアルツハイマー型認知症の発症リスクが1.5倍、血管性認知症(脳卒中に伴う認知症)が2.5倍高いことが示されています。

糖尿病では、脳血管の動脈硬化性変化、インスリン抵抗性に伴う高インスリン血症、糖毒性(高血糖自体による神経細胞への毒性)、また治療に伴う過度の血糖低下(低血糖)による脳のダメージなど複数の因子によって認知症を発症します。

脳血管の動脈硬化性変化としては、比較的太い血管の狭窄・閉塞による脳梗塞、微小血管の硬化による潜在性の脳虚血があります。前者は血管性認知症に結びついて、再発を重ねるごとに認知機能は階段状に低下します。後者は認知機能の基盤である全般的な脳機能の低下に関係し、アルツハイマー型認知症の危険因子になります。

認知症の前段階である軽度認知機能障害の患者に、動脈硬化をきたしやすい糖尿病や高血圧、脂質異常症の包括的治療を行うと、アルツハイマー型認知症への移行が約40%減少したとの報告があります。

糖尿病ではインスリンの働きを妨げる物質が増えてインスリンの効果が低下した状態になることがあり、これをインスリン抵抗性と呼びます。肥満、運動不足、高脂肪食などはインスリン抵抗性を高める方向に作用します。インスリン抵抗性が高まると血糖がより上がるために、さらに多くのインスリンが分泌されて高インスリン血症を招きます。このとき、脳ではインスリンの移行が妨げられて(ダウンレギュレーション)、低インスリン状態になり脳内のインスリン作用不足が生じます。

脳内ではインスリンはアルツハイマー型認知症で蓄積する異常蛋白質のアミロイドβを細胞外に排除する作用があり、もう1種類の異常蛋白質、タウ蛋白の代謝にも影響しているので、糖尿病ではアルツハイマー型認知症の病的変化がより進むことになります。さらに、インスリンを分解する酵素はアミロイドβを分解する作用もあるので、高インスリン血症による相対的なインスリン分解酵素の低下がアミロイドβの分解系の機能低下も招きます。

更に注意すべき点として、治療に伴う低血糖の影響があります。低血糖発作は認知症の発症を2倍高め、認知症は低血糖発作を3倍高めるとされており、低血糖と認知症は双方向性の関係にあります。認知症ではあまりに厳格な血糖コントロールを目指すべきではなく、その人の状況に応じた食生活の指導や薬剤選択が必要です。

今ではアルツハイマー型認知症を「脳の糖尿病」、「3型糖尿病」とも呼ぶようにもなっています。脳神経疾患の診療に携わる専門医には糖尿病の知識が必須と言えるでしょう。

 神経内科とは

本稿は、兵庫県保険医協会テレホンサービス(平成29年8月)の原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


 神経内科は脳・脊髄(中枢神経)とそれらから手足に運動の指令を伝える神経、身体の各部位からの感覚を伝える神経(末梢神経)、そして筋肉に起こる病気を診る診療科です。例えば手足が上手く動かせないという症状をみた場合、その原因には中枢神経から末梢神経、筋肉に至るいずれかの部位で病気が生じている可能性があります。またその病気にしても神経に血液が通わなくなったため、細菌やウイルスによる炎症やアレルギー反応で神経が壊れたためなど様々なものがあります。神経内科では一連の神経系のどこに、どのような変化が起こったかを突き止めて治療にあたります。これに対して神経内科と間違われやすい精神科や心療内科では神経系を調べても目に見える形での異常は原則としてありません。コンピューターで言えば、神経内科はハードウエアの故障、精神科や心療内科はソフトウエアの故障を扱うといえるかもしれません。

 神経内科によくある症状としては、頭痛、めまい、しびれ、物忘れ、手足に力が入らない、手足が振るえたり勝手に動く、喋りにくい、むせる、物がだぶって見える、急に気を失う、意識がはっきりしていないなどがあります。病気をしては脳卒中、パーキンソン病、認知症、てんかん、脳炎・髄膜炎などがあり、ほかにも筋萎縮性側索硬化症などの神経難病も扱います。一部の病気では病態に応じて脳神経外科や整形外科、精神科、眼科、耳鼻科などとも協同して診療にあたることがあります。神経内科の病気は一昔前は診断がついても治らない病気が多いという印象がありましたが、いまでは多くの病気が適切に治療できるようになっています。たとえ根本治療ができなくとも患者さんの生活の質に配慮したいろいろな対応策も増えています。

 神経内科を専門とするには特別の教育を受ける必要があり、日本神経学会が認定している神経内科専門医の数は全国で5000名強と限られています。神経内科を標榜している医療機関も各地に十分あるとはいえません。日本神経学会のホームページでは各地域の神経内科専門医を探すことができます。また神経内科で扱う病気の解説もあり、これらは一般の方でも閲覧可能です。受診時の参考にご活用ください。

 パーキンソン病について

本稿は、兵庫県保険医協会テレホンサービス(平成29年5月)の原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


 パーキンソン病は今から200年前の1817年にイギリスの開業医であるジェームス・パーキンソンによってはじめて報告された病気です。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズで活躍したマイケル・J・フォックスがこの病気のために若くして俳優引退を余儀なくされたことでも知られています。人口10万人あたり100名以上の患者さんがいるとされており、脳神経系の病気としては比較的多い方です。人口の高齢化とともにますます増加すると予想されています。

 主な症状は、身体の動きに関係する運動症状とそれ以外の非運動症状に分かれます。運動症状は、じっとしているときに手足がふるえる、動作が全般的に鈍くなる、筋肉に特有の硬さが現れる、立ったり歩いたりした際にバランスを崩しやすくなりなどが代表的です。一般にこのような身体の動きに変調がおきる運動症状の出現でパーキンソン病に気がつかれます。非運動症状は、排泄の障害や起立性低血圧などの自律神経症状、睡眠の障害、幻覚、うつ等の精神症状などがあります。最近では非運動症状の中でも、便秘、夢でうなされて騒ぐ、臭いを感じなくなるなどは運動症状に先立って生じていることが知られるようになりました。

 パーキンソン病の診断は、これまでの症状の経過をよく聞いて、現在の症状を注意深く観察することが最も重要です。通常の血液検査や頭部MRI検査などには特に異常はありませんが、数年前からこの病気の特徴的な心臓の自律神経障害や脳内で低下するドーパミンを調べる画像診断が用いられるようになり、診断の精度が上がっています。治療は不足するドーパミンを補う薬物療法が主体になります。治療薬はいろいろな効き方をするので、各種の薬の中からその人の症状と日常生活、社会生活の状況に合わせて選択する必要があります。長く付き合っていく病気なので、根気よく治療を続ける必要があります。

手足がふるえたり、身体の動きがぎこちなくなった場合には、かかりつけの医師にパーキンソン病の心配を相談して、必要な場合は脳神経系の病気を専門に診療している神経内科で診てもらってください。

 首が左右に振れている。治療法は…

神戸新聞 カルテQ&A(平成29年3月23日)に掲載されました。
https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/karte/P20131011MS00174.shtml

つちやま内科クリニック 土山雅人


 【問い】4年ほど前から、人と話したりテレビを見たりしている時や、車の運転時に自分では意識していないのに「首が左右に振れている」と妻から指摘されました。何か治療法はあるのでしょうか。(69歳、男性)

 【答え】首の震えは、方向が左右なら「本態性振戦」という病気に多く、縦なら「パーキンソン病」に多く見られます。問いの方の場合は左右で、それ以外の症状がなさそうなことも考えると、頭部に限った本態性振戦の可能性が考えられます。
 本態性振戦は運動障害の一種で、手が震えて字が書きにくかったりコップの飲み物をこぼしてしまったりします。9割が手の震えですが、首が震える人も5割ほどいます。のどの奥に力が入りすぎて声が震えるという人もいます。
 原因は不明で、画像や脳波に異常が見られません。20代と60代に発症のピークがあり、高齢者に多く見られます。治療は、それによってどれだけ困っているかが大事になります。この方は69歳なので、仕事はしておられないのでしょうか。支障がなければ、どれだけ気にするかという問題になってきます。
 「震えを絶対止めなければ」と緊張すると症状が悪化します。症状が軽い場合は、何か人前で発表しなければならない時にだけ精神安定剤を飲んでもらいます。漢方薬を適時飲む方法もあります。その次の段階では、交感神経の緊張を緩める薬「βブロッカー」が治療の第1選択です。ただ、高齢者の場合は、心臓の働きが低下するなどの副作用に注意が必要です。抗けいれん剤の一部に効果があることも知られています。
 放射線や超音波などを使った治療法もあります。ただ、生活に支障があまりないのなら、薬を使いつつ様子を見てはいかがでしょうか。
(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)

 パーキンソン病 他に治療法は

神戸新聞のカルテQ&A(28年11月3日)に掲載されました。
http://www.kobe-np.co.jp/rentoku/karte/P20131011MS00173.shtml

つちやま内科クリニック 土山雅人


【問い】昨年11月ごろから歩行の異常や右手足の震えがあり、磁気共鳴画像装置(MRI)、核医学(RI)、心筋シンチグラフィーの検査を受けるとパーキンソン病と診断されました。今は、薬を朝1回1錠飲んでいます。薬を飲んでも震えは止まらないと言われますが、他にどんな治療法がありますか。
(68歳、女性)

【答え】パーキンソン病は脳の病気ですが、心筋シンチグラフィーは心臓の交感神経の働きをみます。さらに受けたというRI検査は、頭の中の神経伝達物質「ドパミン」が減っていないかを調べたはずです。それでパーキンソン病と診断されたのなら、間違いないと思います。
 治療の基本は薬物療法です。脳の奥を電極で刺激する手術もありますが、薬でのコントロールが難しい人や副作用がひどい人に限られます。
 薬の選択や飲み方は、本人の症状などによります。比較的若いうちの発症では、通常は「ドパミンアゴニスト」という薬でドパミン受容体を活性化させます。高齢なら、脳のドパミンを補うL―DOPA(エルドーパ)という薬をよく使います。質問者の68歳は、両方の境目といえます。
 どんな薬も体調や副作用を見て慣らす必要があります。この病気の状態を測る客観的指標はありませんので、焦らずに薬を調整することが大切です。
 パーキンソン病では、じっとしているときに震えますが、百パーセント止める必要はありません。ただ、繰り返す動作がしにくいため、家事や洗顔がやりにくい場合があります。自分が生活しやすいレベルまで治すことを目標にしましょう。
 安静にして良くなるわけでもありません。運動をして今まで通りの生活をすることが大事です。完治する治療法はないので、長く付き合っていく病気として受け入れましょう。患者会などで、先輩患者に生活の工夫を教えてもらうのもお勧めです。
(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)

 新しい薬が次々と登場 あきらめないで前向きに、活動的に

大日本住友製薬さんのサイト(ドクターからのメッセージ)で当院のパーキンソン病診療の記事が掲載されました。
http://kanja.ds-pharma.jp/message/parkinson/column047.html

つちやま内科クリニック 土山雅人


・脳神経疾患の診療を専門として町中に開院、在宅医療にも注力

当院は脳神経疾患の診療を専門として2001年に開院しました。西宮市の住宅街に位置し、約100人のパーキンソン病患者さんが通院されています。病院に勤務していた当時、在宅医療に接する機会はあまり多くなかったのですが、いまでは月80回、約50人の患者さんのもとに訪問診療を行っています。パーキンソン病は治療が長期に及ぶため、褥瘡(床ずれ)や排泄に関するトラブルに遭遇することもあります。近隣の他科医療機関や訪問看護ステーションとも連携しながら、地域におけるさまざまな医療的課題に対応することが町の診療所の大切な役割であると考えています。

・運動症状の前に便秘や嗅覚障害などが現れることも

パーキンソン病の症状は、大きく運動症状と非運動症状に分けられます。主な運動症状として振戦(身体の片側からはじまることが多い手や足のふるえ)、動作緩慢(体の動きが鈍くなる)、筋強剛(余計な力が入って筋肉が固くなる)、姿勢反射障害(身体のバランスをとりづらく、歩き出しや方向転換のときに転びやすくなる)があり、以前はこれら運動症状がパーキンソン病の症状の主体と考えられていました。
最近、注目されているのが非運動症状です。非運動症状には、うつや発汗異常、起立性低血圧(立ちくらみ)、幻覚・妄想、認知機能障害など、さまざまなものがあります。なかには運動症状の発現に先立って現れるものもあり、便秘や嗅覚障害、レム睡眠行動異常(夢の内容と同じように行動してしまい、叫んだり暴れたりする)などがその代表例です。レム睡眠行動異常では隣で寝ている人にぶつかったり、周囲のものにぶつかりケガをしたりすることがあり、それが受診のきっかけになることもあります。

・薬物治療はL-ドパ合剤とドパミン受容体作動薬が基本、補助薬も上手に併用

薬物治療はガイドラインを参考にしながら組み立てます。基本薬はL-ドパ合剤とドパミン受容体作動薬の2種類です。体内にドパミンを補充することで効果を発揮するL-ドパ合剤はとても役に立つ薬ですが、長期に服用していると運動合併症を招きやすくなります。運動合併症とは、薬が効いている時間が短縮し、調子のいいときと悪いときの差が大きくなるウェアリング・オフ現象や、薬が効きすぎて身体が勝手に動いてしまうジスキネジアという症状などです。治療内容にもよりますが、運動合併症は服薬を始めて10年前後で現れる方が多く、症状の変動を抑えるためにL-ドパ合剤の服用回数を細かく分けたり、ドパミン受容体作動薬の併用や増量を行ったりします。ただし、ドパミン受容体作動薬はL-ドパ合剤に比べて幻覚・妄想などの精神症状の出現が心配されますので、その心配が特に大きい高齢患者さんではあまり投与量を増やさないようにしています。

治療薬としては、これらのほかに補助薬というカテゴリーの薬が数種類あります。たとえば、患者さんの訴えが多い振戦に対しては抗コリン薬やドパミン賦活薬を用いることがあります。補助薬は患者さんがお困りの症状ごとに使い分けが可能であり、基本薬に上手に併用すれば運動合併症対策にもなります。薬を使いすぎないように、患者さんがどんな症状にどれだけ困っているかに合わせて治療することを心がけています。

・身体を動かすことを習慣に

私はいつも患者さんに、病気だからとふさぎ込まず、できるだけ普段通りの生活を送ってくださいと話しています。症状が軽度なうちは、身体を動かすことを習慣にするようにしてください。通所リハビリテーションなどのサービスも積極的に活用し、教わった運動を常日頃から実践するのがよいでしょう。「リハビリテーションのため」と意識しすぎず、いつもの運動の延長ととらえて気楽に取り組むのが継続のポイントです。

治療を開始して10年ほどが過ぎると、先ほどお話ししたように運動合併症が目立ちはじめます。そのときは、毎日の症状の変化や特に困った症状、症状が現れるタイミングなどを診察の際に細かくお伝えください。こうした情報は薬の調節や切り替えにとても役立ちます。また、病気がさらに進行すると、認知機能障害が出てくることがあります。患者さんご自身が伝えることが難しい場合は、ご家族が代わりに伝えていただけると助かります。毎日の症状を書き留める症状日誌という冊子がありますので、これを利用するのもよいかもしれません。ご希望の方は主治医に尋ねてみてください。

・パーキンソン病の理解促進のため、力を貸してください

パーキンソン病に伴うさまざまな症状を周囲が理解せず、たとえばウェアリング・オフ現象で調子が悪い時期の患者さんに対して「やる気がない」、「さぼっている」などと責めてしまうことは避けるべきです。もちろん私たち医師も正しい知識の普及・啓発に努めますが、ご家族のみなさんも周囲の理解促進にご協力いただきたいと思います。

パーキンソン病は、ここ数年で新しい薬が次々と登場し、画像検査の技術もめざましく進歩しました。病気になってしまったとあきらめることなく、毎日を前向きに、活動的に過ごしましょう。心配なことがあれば患者さん1人やご家族だけで抱え込まず、当事者会の「全国パーキンソン病友の会」に相談してみるのもよいでしょう。

 30周年おめでとうございます

本稿は、全国パーキンソン病友の会 兵庫県支部 創立30周年記念(平成28年)の原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


 全国パーキンソン病友の会兵庫県支部創立30周年おめでとうございます。私事ですが30年前といえば初期の研修を終えて神経内科医として歩み始めた頃になります。当時は治療薬といってもドーパ剤(ドーパ合剤)が主体で、1日に9−10錠以上の大量投与を余儀なくされていた患者さんがおられたことを覚えています。その後は年を追うごとに新たな治療薬や治療法が開発され、さらに21世紀に入り今後数年のうちにも新たな薬が使われるようになると聞いています。

 パーキンソン病は1817年に英国ロンドンの開業医であるジェームス・パーキンソンが発表した「振戦麻痺に関する小論(An essay on the shaking palsy)」という論文から病気の研究が始まりました。すなわち来年で200年の歴史になります。最近では病気の進展経過について大きな解明があり、これまでになかった画像診断に関しても、必要に応じてMIBG心筋シンチやDat-scanなどを行うことで診断の精度が上がっています。残念ながら根本的な治療方法まではまだ距離がありますが、それは次第に縮まりつつあります。これからまた30年先?といわず、3年先、5年先には大きな進展があるでしょう。ぜひ希望と期待を持って日々過ごしてください。

 顔面神経麻痺

本稿は、兵庫件保険医協会テレホンサービス(平成28年9月)の原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


顔の筋肉が動かなくなる顔面神経麻痺は、脳梗塞などの脳自体の障害による中枢性顔面神経麻痺と脳からの指令を伝える末梢神経の障害による末梢性顔面神経麻痺に分けられます。中枢性では顔面麻痺の同じ側の手足の麻痺を伴うことが多いですが、末梢性では顔面のみの麻痺となります。今回は後者の末梢性顔面神経麻痺、いわゆるベル麻痺を取り上げます。

末梢性顔面神経麻痺は、顔面神経が頭蓋骨の中のトンネルの様な顔面神経管を通るところで炎症をおこして腫れるために、神経が圧迫されて半側の顔面全体に運動麻痺が起こります。そのために、片側の額のしわ寄せができない、片目が閉じない、片方の口の端から空気が漏れるなどの症状をきたします。原因としては単純ヘルペスウイルス1型の再活性化に関連して発症すると考えられるようになってきました。人口10万人あたり年間20〜30名に発病しますが、一般に予後は良好で無治療でも70%以上は後遺症なく治ります。ただし耳部の水泡を伴って顔面神経麻痺が生じた場合は水痘帯状疱疹ウイルスによるハント症候群と呼ばれ、より重症で後遺症をきたしやすくなります。

治療には急性期は神経の腫れをとるために10日から2週間程度、副腎皮質ステロイド剤が用いられます。中等症以上の麻痺の場合はヘルペスウイルスに対する抗ウイルス剤の併用が考慮されます。その後は神経の修復に役立つと考えられるビタミンB12製剤などが用いられます。鏡を見ながら自分で顔面の各部位を意識的に動かすバイオフィードバック訓練も行われます。不用意に低周波電気刺激療法をおこなったり、大きく顔を動かすような粗大で過度な運動を行なうと顔面神経が間違って配線されてしまい、口を動かすと目が閉じるなどの病的共同運動のきっかけになることがあります。他にも星状神経節ブロックや高圧酸素療法、鍼灸などが行なわれることがありますが、いずれも明らかな有効性を示すデータは乏しいのが現状です。

麻痺症状が軽度から中等度ではほとんどは数ヶ月以内に治りますので焦らずに治療に取り組む必要があります。全く顔面筋が動かないような重度の場合では半年以上たっても回復しないことが多く、後遺症の程度によっては手術で神経をつないだり、反対側の顔面神経の移植が行なわれることがあります。

顔の動きがおかしいと感じたら顔面神経麻痺の可能性がありますので、かかりつけの医師に相談の上、神経内科や耳鼻科の専門医に診てもらってください。

 栄養障害により汎血球減少をきたした在宅患者の2例

本稿は、第21回関西PEG・栄養とリハビリ研究会の口演抄録です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


汎血球減少は赤血球、白血球、血小板のいずれもが減少した状態で、一般に骨髄機能の障害による血液疾患に起因する。しかし一部には栄養障害に伴って汎血球減少が見られる場合があり、栄養管理において注意すべき重要な事象である。今回、胃瘻患者で銅欠乏に伴う汎血球減少と経口摂取でアルコール性の汎血球減少をきたした症例について報告する。

症例1:60歳代、男性。平成5年ごろ発症のALS患者。平成11年から前医により訪問診療。平成16年から胃瘻、気管切開・人工呼吸で療養。平成26年春頃から味覚障害に対し亜鉛含有製剤のプロマックの処方。26年10月の採血でヘモグロビン3.4g/dl、白血球800/μl、血小板5.1万/μl。銅2μg/dlと著明低値で銅欠乏性貧血の診断。純ココアによる銅の補充で汎血球減少は改善した。

症例2:50歳代、男性。平成18年に脳出血で右片麻痺、失語症。平成18年から当院より訪問診療。経口摂取可能だが、独居生活で食事は不規則。次第に飲酒量増加。平成25年7月の採血でヘモグロビン10.0g/dl、白血球3700/μl、血小板4.8万/μl。食生活の改善と飲酒中止により汎血球減少は改善した。

両者の血液異常の機序について考察し、在宅における栄養管理の注意点を考える。

 認知症の理解と多職種連携

本稿は、兵庫保険医新聞・第1775号(2015年2月25日)掲載の原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


 1980年代の世界のトップリーダーであったアメリカのレーガン元大統領とイギリスのサッチャー元首相の共通点をご存知ですか? それはふたりとも引退後にアルツハイマー型認知症を発症したことです。世界でも最高水準の健康管理を受けていたと思われる人でも患う病気、それが認知症です。日本では平成24年の時点で認知症高齢者は462万人、その予備軍である軽度認知障害の方は400万人と推定されており、認知症はまさにcommon diseaseです。

 さて、認知症の定義にはいくつかありますが、おおむね「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態(認知症疾患治療ガイドライン、2010)」とされています。これにはふたつのポイントが含まれています。ひとつは「後天的な脳の障害」によって認知機能が落ちること、すなわち認知症は特有の脳の病気であること。もう一つは「日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」、すなわち医療機関での診察だけでは知ることが難しいその人の生活状況を把握することが重要であることです。前者は医師による医学的な判断が大切ですが、後者はその人に関わる各職種(訪問看護師、ケアマネージャー、介護スタッフ・・)からの情報提供が欠かせません。認知症を正しく評価・診断しようとすれば、その時点からすでに多職種との連携が必須と言えます。

次に注意すべきは、認知機能が落ちる状態(=認知症状態)は認知症と言う脳の病気(=認知症疾患)以外でも起こることです。筆者は認知機能の低下は、]群宗↓廃用、I妥変化の3つの因子から考えるようにしています(図1:略)。,力群修蓮加齢に伴う脳の機能低下ですが個体差が大きく、変化も緩徐で判定が難しい面があります。△稜冤僂蓮脳を活用しないことで生じる可逆性の要素を持つ機能的障害ですが、適切な対応がなければ回復困難になることがあります。の病的変化は、脳の病理学的所見による器質的障害であり、より有効な診断、治療、ケアが模索されています。個々のケースでこれらの3つの因子がそれぞれどの程度認知機能の低下に関与しているかを想定しながら、その人に応じた治療やケアを考えることが重要です。

特に△稜冤僂枠鬚韻蕕譴詛承’修猟祺爾任△襪海箸鯔困譴討呂い韻泙擦鵝最近では高齢者において通常の加齢のレベルを超えて心身の働きが低下した状態を「フレイル」(以前は「虚弱」とも呼ばれていました)として捉えるようになっています。フレイルはしかるべき介入によって再び健常な状態に戻る可能性がある病態であるために、高齢者の健康管理を考える際には各職種が理解しておくべき概念です。フレイルには身体的、精神・心理的、社会的側面があると言われていますが、廃用性の脳機能の低下(認知症状態)もフレイルの一側面と捉えて対応を考えることが必要でしょう。

の病的変化は認知症疾患(図2:略)によって様々です。例えば、アルツハイマー型認知症では老人斑(主成分はアミロイドβ蛋白)や神経原線維変化(タウ蛋白)の出現を伴う神経細胞の脱落・消失、レビー小体型認知症ではレビー小体(α‐シヌクレイン蛋白)の出現を伴う神経細胞の脱落・消失などが挙げられます。このような変化が脳のどの部位から生じて、どのように広がっていくかにより、その認知症特有の症状が生じます。認知症に関わる各職種が認知症患者さんに対してより適切に対応するためには、このような脳の病的変化について一定のレベルの医学知識を持っておくことも大事でしょう。

認知症では患者さん自身に関わることと同様に家族との関わりも大切です。近年、認知症に関する情報は様々なところから得られるようになってきました(情報の中身は玉石混合ですが・・)。しかし、いざそれが自分の身内に実際に起こると家族は戸惑ってしまうものです。家族だけで認知症を抱えることはできません。認知症に携わる者にとって、各々の専門職としての知識や経験を生かして、なかなか先の見えない認知症介護の家族を支えていくことも大きな役割のひとつと言えます。

認知症に特効薬はありません。認知症における医療の役割は限られています。認知症に関わるということは本人、家族の生活に関わる部分も大きく、個々の家庭に応じた対応が求められます。そのためには正しい医学知識に裏打ちされた認知症の理解と多職種の連携が欠かせません。

 パーキンソン病の最近の話題

本稿は、兵庫県保険医協会健康情報テレホンサービス平成27年1月放送分の原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


 パーキンソン病は手足が勝手に振るえたりやこわばったりする、姿勢のバランスが悪くなるなどの身体の運動機能の障害を主体とする脳神経系の病気です。経過とともに便秘や立ちくらみなどの自律神経機能の障害や気分が滅入るなどの精神機能の障害なども見られることが知られています。60歳代で発症することが多く、日本では人口10万人当たり100名強の患者さんがいると考えられています。今後の高齢者の増加に伴い、さらに患者数の増加が見込まれます。

この病気は1817年にイギリスのジェームス・パーキンソン医師によってはじめて報告されました。その後、いろいろと研究がすすめられ脳内のドパミンが不足していることがわかり、1960年代からドパミンを補充する治療が始められるようになりました。最近ではいろいろな機序でドパミン神経系を賦活する薬が開発されて、現在9種類の異なる種類の治療薬が使われるようになりました。そのなかには1日に1回の服用で効果する薬や貼るタイプの薬、自己注射の薬などもあり、それぞれの特徴を生かして個々の患者さんの状態に応じた治療が行われるようになっています。また薬が効きにくい人や薬の副作用が強い人には、脳に電極を差し込んで電気刺激をして症状を改善する脳深部刺激療法がおこなわれることもあります。

パーキンソン病は一般に特徴的な症状の組み合わせをみて診断します。MRIやCT等の画像検査や血液検査などではこの病気に特異的な所見はありませんが、これらの検査はパーキンソン症状を呈する他の病気がないことを確認するために行われます。これまでパーキンソン病の診断が難しい一部の患者さんの場合には試験的にドパミンを補充して、その効果を見て判断することが行われていました。今は脳内のドパミンの動きを調べる検査や心臓の自律神経系の機能を通じてパーキンソン病の可能性を判定する検査などができるようになり、より正確な診断がなされるようになりました。

今後もパーキンソン病の根治を目指してさらに研究・開発が行われることが期待されます。

 「痙性斜頸」注射や手術で症状を緩和

本稿は、神戸新聞「カルテQ&A」(平成26年6月)掲載の原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


 【問い】10年以上前から、体が震えてじっとしているのが苦痛になりました。病院の神経内科で「痙性斜頸(けいせいしゃけい)」と診断され、首にボツリヌス毒素の注射を4回受けましたが、効果がありません。今は別の病院で薬を処方されていますが、効き目はいまひとつです。(女性、63歳)

 【答え】痙性斜頸は、首や肩周辺の筋肉が過剰にこわばる病気です。そのせいで首が前後や左右に傾いて自分の意思では戻らなくなったり、ゆっくりと回転したりします。一般的には、症状が体全体に広がるようなことはありません。命に関わるような怖い病気ではないものの、外見に影響するので悩まれる方が多いのも事実です。

 詳しい原因は未解明ですが、脳や神経の異常が関わり、睡眠中は症状がありません。起きている間に徐々に悪化することが多いようです。顎などに軽く指を当てると、首の傾きが一時的に戻る現象も特徴です。発症のきっかけとして、仕事で首や体を傾けるような作業を続けることや、抗精神病薬の服用が影響することもあります。20〜50代ごろに発症しやすいといわれています。

 患者さんは「首の傾き」を訴えて受診される方が多く、問診や触診、採血検査をします。ボツリヌス毒素の注射は有効な治療法とされ、首や肩に打つことで症状を緩和します。ただし、1回の注射で効果が持続するのは3〜4カ月ほどで、繰り返すと毒素への抗体ができて効きにくくなることもあります。患者さんにとっては薬剤費の経済的負担もあるので、神経内科などで相談してください。

 ストレスが大きな引き金になっているので、その解消を図ったり、処方された安定剤を服用したりすることも有効です。重症になると、異常を起こしている神経を切断する手術や、電気刺激装置を脳に埋め込む治療法もあります。

 (兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)

 認知症を抱える家族へ(アドバイス)

本稿は、兵庫県保険医協会健康情報テレホンサービス平成26年6月放送分の原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


最近は認知症に関する各種の情報が増え、認知症は身近なものと思われるようになってきました。それでも、いざそれが自分の身内に起こると家族の戸惑いは少なくありません。認知症を抱える家族の方の多くは、経過とともに4つの心理的な段階をたどると言われます。

まず、第1段階として認知症の異常な言動や行動にとまどい、認知症を否定したくなります。この時期は家族としての心配を他人に打ち明けることができず、やむなく家庭の中だけで悩んでしまいがちです。

次いで第2段階に入ると認知症の生活上の問題に対してどのように対処して良いかわからず、混乱してついには怒りの気持ちも湧いてくるようになります。認知症に対する理解が不十分なため、往々にして不適当な対応をとってしまい、しだいに本人と家族の間がとげとげしくなり、そのためにより関係性が悪化するといった悪循環にはまりがちです。家族としても身体的、精神的に疲れ果ててしまって、つらい時期です。認知症に対する正しい知識を取り入れて、医療や介護のサービスを利用することが勧められます。

更に第3段階になると認知症の問題を割り切ってとらえられるようになり、同じ認知症の症状であっても、客観的に見ることでそれに伴う問題は軽減していきます。

最終的に第4段階になれば認知症に対する理解が更に深まり、認知症の心理状態を自分自身にも投影できるようになって、あるがままの姿を受け入れられるようになります。

認知症はなかなか先の見えない生活が続きます。認知症について学ぶことは認知症を介護していく上で大きな力になります。しかし家族だけで認知症を抱えていこうとすると、いずれどこかに歪が生じかねません。気負いは禁物です。

認知症には本人の自尊心を傷つけないような余裕を持った対応が必要です。そのためには家族にもひと息つくことが不可欠です。医療や介護の専門家の手を借りて、ゆったり楽しく一緒に暮らしていく時間を作っていきましょう。

 長期の経管栄養と血糖管理 〜経過とともに血糖値上昇をきたした1例〜

本稿は、第20回関西PEG・栄養研究会(平成26年6月28日、大阪)での口演要旨です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


3年間以上経管栄養行っている在宅患者14例(いずれも神経疾患で、経管栄養導入前に糖尿病の指摘なし)のうち、1例において経過とともに血糖の上昇がみられた。昼の栄養剤注入後の血糖が300mg/dl前後、HbA1cは6.5%となったため、栄養剤のカロリー制限とともにDPP-4阻害薬のシタグリプチン50mg/日を投与したところ、血糖は200mg/dl前後、HbA1cは5.5%以下に低下した。同時に400mg/dl以上だった中性脂肪も200mg/dl代に低下した。

本例を通じて耐糖能異常患者に対する経管栄養の注意点や対応策について検討し、糖尿病治療薬の選択などに関しても考察する。

 認知症のはじまり

本稿は、兵庫県保険医協会健康情報テレホンサービス平成25年9月放送分の原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


認知症、特にアルツハイマー型認知症のはじまりとして、軽度認知機能障害という段階が注目されています。これは記憶障害などの認知機能の低下があるものの、日常生活には大きな支障がなく、認知症とまでは言えない状態を指します。

各種の調査によると一見正常と思われる65歳以上のひとのうちの約5%は、この軽度認知障害に相当すると考えられています。そして、これらの軽度認知障害のひとたちの中から年間10%程度が認知症に進展すると報告されています。

一方で、長期に経過を追っても最終的に認知症に至らないひとや認知機能が回復するひとがいることも分かりました。すなわち、軽度認知障害は色々な背景因子や基礎疾患を持ったひとたちが含まれた集団なので、その将来的な変化は様々です。現在、いろいろな検査によって将来の進行を予測する研究が世界的規模で進められています。

軽度認知障害は多くの場合、最近起こった出来事を憶えていないといったことで気づかれます。これも本人がもの忘れを自覚する場合からあまり気にしていない場合までいろいろです。一般にもの忘れの自覚がないひとの方が、将来的にアルツハイマー型認知症に移行しやすいようです。

また日常生活では自分の身の回りのことはできていても、仕事や家事などの作業にはそれなりの困難があり、約半数は一定の介助を必要とします。この場合も仕事や家事の障害が強いものほど認知症へ移行する可能性が高いとされています。

さらに米国の報告では半数近くになんらかの精神症状を伴うとされており、その半分がうつ、半分弱が無気力でした。うつを伴う軽度認知障害の場合も認知症への移行に注意が必要です。

物忘れがすなわち認知症のはじまりとは限りませんが、日常生活に特に問題がなくても年齢相応を超えた記憶の障害が疑われる場合は、医療機関で相談して下さい。

 当院で経験した発作性運動誘発性舞踏アテトーゼの3例

本稿は、日本プライマリ・ケア連合学会第27回近畿地方会の発表抄録です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


発作性運動誘発性舞踏アテトーゼ(paroxysmal kinesigenic choreoathetosis:PKC)は、運動開始時に突然四肢の舞踏アテトーゼ様の不随意運動を生じる原因不明の稀な神経疾患である。比較的少量の抗てんかん薬(カルバマゼピンなど)が著効することが知られているが、PKCでは意識消失やけいれん発作などは伴わず、いわゆる「てんかん」の範疇に入るものではないと考えられている。これまで当院では3例のPKCと思われる患者を経験したので報告する。

症例はいずれも男性で、発症年齢は10歳、15歳、16歳(当院受診時は各々42歳、22歳、18歳)。3例とも体育の授業や運動部の練習などの際に、急に走り出したり、立ち上がったりすると、手足のこわばりが生じてスムーズな動作ができなくなることきっかけに自分の運動症状に気づいた。いずれもカルバマゼピン100(〜200)mg/日の服薬で不随意運動は良好にコントロールされている。

今回は3例の臨床経過を通じて、本症の意義や問題点について考察する。

 頭痛のあれこれ
〜こわい頭痛とこまった頭痛〜

本稿は、国保ひょうご、2012、No.602に掲載された原稿です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


たかが頭痛、されど頭痛
日本における頭痛に悩むひとの数(頭痛持ち)は3000〜4000万人にのぼるとされ、頭痛はごく一般的にみられる症状の代表と言えます。このように身近な症状であるがゆえに、「たかが頭痛」として正しい対応を受けることなく過ごしているひとも少なくないようです。ひとくちに頭痛と言っても、多種多様の原因があります。命にかかわるこわいものから、日常生活に支障をきたしてこまるものまで様々です。今回はいろいろな頭痛について簡単に解説します。

こわい頭痛のあれこれ
こわい頭痛の代表はくも膜下出血による頭痛です。この場合、バットで頭を殴られたような激しい頭痛が突然起こります。初回の発作で三分の一のひとが亡くなるといわれています。今まで経験したことのない強い頭痛が急に起こった場合は大至急に脳外科を受診する必要があります。数日の経過で発熱とともに頭痛が生じたならば髄膜炎や脳炎などが疑われますし、数週から数か月の経過でじわじわと頭が痛くなって、しだいに手足の力が抜けてきたり、物が二重に見えてきたりするなどの症状を伴う場合は、慢性硬膜下血腫(脳と頭蓋骨のあいだに血液が溜まる)や脳腫瘍などが考えられます。これらの場合も早急に脳神経外科や神経内科などの専門施設で診察を受けることが望まれます。頭痛のなかでこわい頭痛が占める割合は多いものではありません(1〜3万人)が、普段とは違った頭痛で気になる場合は医師に相談してください。

こまった頭痛のあれこれ
一方、命にはかかわらないが不快な頭痛を繰り返したり、頭痛のために寝込んでしまい日常生活や社会生活に悪影響が及ぶなど、生活の質にかかわる頭痛(慢性頭痛)の代表には緊張型頭痛(2200万人)、片頭痛(840万人)、群発頭痛(1万人)などがあります。
緊張型頭痛は圧迫されるような、締め付けられるような非拍動性頭痛(ズキズキとした脈を打つような痛みではない)で、頭から首筋や肩にかけての痛みが主体です。無理な姿勢で作業を続けるなどの身体的なストレスや過度の緊張にさらされるなどの精神的なストレスをきっかけに生じます。病状に応じて非ステロイド性消炎鎮痛剤や筋弛緩剤、抗不安薬、抗うつ薬などの治療が行われます。適度な運動や環境の整備などの薬物以外の対応にも配慮が必要です。
片頭痛は頭の片側が痛むことが多いですが、約4割のひとは両側性にズキズキとした拍動性の痛みを感じます。また2割のひとでは頭痛の起こる前にキラキラした光やギザギザした光(閃輝性暗点)といった視覚性の異常が見られます。まれには半身の脱力やしびれ感などが起こることもあり、これらの頭痛に先行する症状は「前兆」と呼ばれます。一般に片頭痛の痛みは4〜72時間続き、悪心・嘔吐を伴うことが多く、頭を振るなどの日常的な動作でも痛みが強くなるので寝込んでしまうことが少なくありません。片頭痛の発作中は感覚が過敏になるので、通常は気にならない光や音、臭いなどが不快に感じられることがあります。片頭痛の治療は後述します。
群発頭痛は眼球の奥から前頭部や側頭部に広がる激しい頭痛の発作の期間(群発期)を年に何回か繰り返すのが特徴です。片頭痛と違って20−30歳代の男性に多く、夜寝ているときに痛みで目がさめて、救急外来に飛び込んでこられるひとも稀ではありません。頭痛とともに眼球の充血や流涙、鼻汁や鼻閉、眼瞼下垂(まぶたが下がった状態)などの特徴的な症状を伴い、痛みで興奮状態になることもあります。頭痛発作時は酸素吸入が有効で、即効性のトリプタン製剤(後述)の注射薬が使われます。非ステロイド性鎮痛剤は無効です。群発期の間は発作予防の投薬が行われます。

最近の片頭痛の治療
片頭痛の治療には、頭痛発作時の痛みをとる頓挫治療と片頭痛を起こりにくくする予防治療があります。2000年以降、頓挫治療の主体はトリプタン系薬剤が用いられるようになっています。現在では微妙に作用の異なる5種類のトリプタン系薬剤があり、剤型も錠剤、口腔内崩壊錠、点鼻薬、注射薬(自己注射)などがあります。これらを個々の片頭痛のパターンに応じて使い分けて、さらに非ステロイド性消炎鎮痛剤や制吐剤(吐き気止め)なども併用して、できるだけ短時間で痛みをとる工夫がなされてます。頓挫治療を月に10回以上要する場合には、予防治療としてカルシウム拮抗剤の塩酸ロメリジンや抗てんかん薬のバルプロ酸が用いられます。ほかにも国際的には効果の認められている薬剤もありますが、日本では保険適応になっていない場合があり配慮が必要です(このような治療の実態に呼応して、厚労省から頭痛治療に対して一部の医薬品の適応外使用の通達が出され選択の幅が広がりつつあります)。

おわりに
頭痛の原因には今回取り上げた以外にもさらに多数のものがあります。小児や更年期に特有の頭痛、市販の頭痛薬などの過剰な服用による頭痛(薬物乱用頭痛)、最近話題になっている脳脊髄液減少症に伴う頭痛などより専門的な対応が必要なもの、眼科の病気(緑内障)からくる頭痛や耳鼻科の病気(副鼻腔炎)からおこる頭痛など頭の外部の原因に由来する頭痛もあります。頭痛でお悩みの方は「たかが頭痛」と軽く考えずに、頭痛診療に理解のある神経内科や脳神経外科でご相談になることをお勧めします。

 認知症の知識
〜アルツハイマー型認知症の話題と当院の認知症診療から〜

本稿は、兵庫県保険医協会北阪神支部・第8回在宅医療研究会の講演要旨です

つちやま内科クリニック 土山雅人


機ゥ▲襯張魯ぅ沺七診知症の最近の話題
1)画像診断の進歩
 アルツハイマー型認知症(以下、ADと略す)の画像診断には、従来より頭部CTやMRIが用いられ、海馬萎縮に代表される特徴的な脳の変化の判定や血管障害などの器質性病変の鑑別などが行われている。最近ではMRI画像をコンピューター処理することによって、海馬傍回の萎縮を半定量的に測定するVSRADと呼ばれる解析方法が開発され、より客観的に萎縮の程度やその進行状態が検討できるようになった。また、核医学的手法を用いて脳血流パターンを調べるSPECT検査(脳血流シンチ)にも画像統計解析の手法が適応され、eZISや3D-SSPなどの解析ソフトが実用化されている。これらによってADの早期の段階から 特徴的な後部帯状回や楔前部などの血流低下も可視化できるようになり、脳血流低下のパターンの分析から各種の認知症(レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など)の鑑別に利用されている。さらにPET検査では、FDG-PETによる糖代謝の検討以外にも、ADの病理で重要な役割をなしているアミロイドβ蛋白の脳内沈着を非侵襲的に画像化するアミロイドイメージングの開発もすすみ、ADの臨床症状出現以前の脳内のアミロイドβ蛋白の動態が検討されている。

2)バイオマーカーからみた経過
 バイオマーカーとは、病態を示すゲノム情報、遺伝子情報、蛋白の変化、代謝産物などの生体由来物質や脳画像を含む生体計測の結果などの、疾患を客観的に評価するための指標である。ADでは脳内アミロイド蛋白の産生、分解、排泄の異常がきっかけとなり不溶性のアミロイドβ蛋白の蓄積が生じ、それに引き続いて神経細胞内にリン酸化されたタウ蛋白が蓄積して細胞死が引き起こされるというメカニズム(アミロイド仮説)が推定されている。現在、世界的な規模でAD、軽度認知障害(MCI)、健常老人における脳脊髄液や血液、脳画像の変化を前向きに検討する試み(ADNI研究)がなされ、ADの発症に至るまでの進行経過が詳しく検討されている。それらの結果によると、ADによる認知症の発症前の軽度認知障害のさらに数年以上前からアミロイドβ蛋白やタウ蛋白の沈着が始まっていることが明らかになり、preclinical ADの存在が認識されるようになった。本邦ではADの早期診断に役立つ脳脊髄液中の総タウ蛋白、リン酸化タウ蛋白、アミロイドβ蛋白の測定は保険適応になっているが、より簡便な早期スクリーニングのための生化学的診断マーカーの開発が望まれる。

3)薬物治療について
 ADの薬物治療は、根本治療を目指す病態改善薬と現状の改善を目指す症状改善薬に分けられる。前者としてはアミロイドワクチンなどが開発されてきたが、今のところ有効な手立ては見つかってはいない。後者としては3種類のコリンエステラーゼ阻害剤と1種類のMNDA受容体阻害剤が抗認知症薬として使用されている。これらの抗認知症薬は、記憶障害を主体とするADの中核症状に対する明らかな改善効果は期待できないが、認知機能障害の進行遅延、介護や見守りの時間短縮、入院・入所までの期間の延長など効果があるとされている。さらに各種の非薬物療法(回想法、芸術療法、運動療法など)や正しい認知症の知識に基づいたケア技術を組み合わせることによって治療効果はより高まり、患者・家族のQOL向上に寄与すると考えられる。

供ヅ院の認知症診療の経験から
1)老老家庭・認認家庭
 日本には約5000世帯の家庭があるが、そのうち約1000世帯は65歳以上の高齢者のみの老老家庭である。高齢化の進行に伴い認知症が増加していることを反映して、老夫婦がいずれも認知症を患っている家庭もいまや稀ではない。このような認認家庭では認知症の対応以外にも、身体疾患の管理、治療中断時の対応、救急入院が必要な場合、退院時の在宅療養に向けての連絡調整、介護者の予期しない体調不良、行政との関わりなどの様々な問題を有している。

2)摂食嚥下障害
 ADの嚥下障害は初期では先行期の障害が主体で、経過とともに準備期や口腔期の障害、末期には咽頭期にも障害がおよび、この間に低栄養や脱水、窒息、嚥下性肺炎などの合併症が生じる。このような障害に対して、摂食嚥下訓練、食材の工夫、食事環境の整備など行われるが、最終的に補液や代替栄養(AHN:artificial hydration and nutrition)の適応が問題となる。現在、特に胃瘻の是非について医療界のみならず市民を含めた各方面からの関心が高まり議論が行われている。

3)在宅看取り
 ADをはじめとする非がん疾患では予後予測や終末期の見極めが難しく、臨床像も個々の疾患(神経疾患、呼吸不全、心不全、肝不全、腎不全など)によって様々である。一般にがんの在宅療養では予後が限られており、疼痛管理などの緩和ケアの比重が高い。一方、非がんでは末期に至るまで脱水、低栄養、褥創、呼吸困難、感染症などの医療的対応を必要とする問題がしばしば起こり、長期的視点に立った治療と緩和ケアの両立が必要である。また、ADの病態や経過(ADは発症から5年程度で約半数の患者が寝たきり状態、平均生存期間は8〜10年)が家族のみならず医療・介護スタッフにおいても十分認識されておらず、看取りの対象としての認識が乏しい実態も問題である。

 パーキンソン病の日常生活とリハビリの注意点

本稿は、兵庫県保険医協会健康情報サービス平成24年9月放送分の原稿です

つちやま内科クリニック 土山雅人


パーキンソン病といわれても、特にこれまでの生活を変えることはありません。むしろ仕事や趣味を続けることで、身体の動きが維持されたり、良くなることが期待できます。パーキンソン病では緊張したりストレスを感じると動きがよりぎこちなくなりますが、好きなことを楽しんでしている時にはスムーズに動きます。周囲の人にもこのような特有の症状の変化を理解してもらってください。食事の内容もほかに病気がない限り制限はありません。お酒や煙草などの嗜好品に関しては主治医のアドバイスを受けたほうが良いでしょう。

日常生活は身の回りのちょっとした工夫で楽に過ごせます。まずは行動する前に、自分の身体の動きや道具の使い方を意識して、段取りや手順を考えておきましょう。いっぺんに二つの動作はしにくいので、ひとつの用事を済ませてから次に取り掛かかってください。自分の症状に合わせて介護用品を利用することも役立ちます。たとえば、食事の際は食器の下に滑り止めマットを敷く、歯磨きには電動歯ブラシを使う、シャツのボタンの代わりにマジックテープを使うなど、使いやすい道具を探してみましょう。生活環境を整えることも重要です。危険や不安を感じると余計に足がすくみます。要所に手すりを設置したり足元を照らす明かりをつける、電気のコードは壁に固定して引っかからないようにするなどの注意が必要です。

病院などでの専門的なリハビリ以外に、日常的に運動を続けることは大事です。週に3回以上、1回20−30分の運動が望まれます。具体的な内容に関しては主治医と相談のうえ、理学療法士さんなどの専門家に指導を受けてください。また必要に応じて、食べ物を飲み込みやすくするための嚥下訓練や大きくはっきりと喋るための言語訓練なども考えてもらってください。

パーキンソン病は家で安静に過ごしていれば良い病気ではありません。積極的に身体を動かして心身ともに活発な生活をおくることが最も大切です。

 手足のふるえでパーキンソン病を疑うとき

本稿は、兵庫県保険医協会健康情報テレホンサービス平成24年2月放送分の原稿です

つちやま内科クリニック 土山雅人


手足がふるえる人の中にはパーキンソン病と診断される方がおられます。この病気は1817年にイギリスの医師ジェームス・パーキンソンによって初めて報告されました。現在、日本では人口10万人あたり約100名の患者さんがおられると推定されていて、これからの高齢化に伴いより増えていくものと考えられています。

この病気のふるえの特徴は、じっとしているときにいつの間にか片方の手や足が小刻みに動いているところです。しかしふるえていても何か動作をするとき、例えば手を伸ばしてコップをとって水を飲むといった一連の動きは意外とスムーズに行えます。ふるえの性質を良く観察することは、他のふるえをきたす病気との鑑別に役立ちます。

またパーキンソン病の場合ではふるえ以外に、身体の動きがぎこちなくなりバランスを乱しやすい、顔つきも硬くなり表情が乏しくなる、声が小さく聞き取りにくくなる、よだれがこぼれやすい、背中が曲がった姿勢となり歩くとすり足になるなど、身体全体にも影響が及びます。

パーキンソン病の診断で重要なことは、この病気に特徴的な症状を見つけ出すことです。パーキンソン病では血液の検査や脳のMRI検査などでは特に異常は見られません。しかしパーキンソン病に似た症状を起こす病気、これをパーキンソン症候群と呼びますが、それらと区別をつけるために検査が必要になります。

パーキンソン病は脳の中のドーパミンと呼ばれる物質が不足するために起こります。したがって治療はドーパミンを補充する薬物療法が中心です。定期的に薬を飲むことで通常の日常生活や社会生活をおくっている人は少なくありません。高血圧や糖尿病のように長く付き合っていく病気なので、根気良く治療を続けることが必要です。

手足のふるえが気になる場合には、かかりつけの医師に相談されて、必要な場合は脳神経系の病気を専門に診療している神経内科で診てもらってください。

 神経内科をご存知ですか

本稿は、兵庫県保険医協会健康情報テレホンサービス平成22年5月放送分の原稿です

つちやま内科クリニック 土山雅人


神経内科は一般的にはあまり知られていない診療科です。患者さんから精神科や神経科、心療内科などと混同されることが少なくありません。また神経内科が得意としている病気の人が他科に受診されていることもあります。

神経内科は脳や脊髄などの中枢神経系、それに連なる末梢神経から筋肉に至るまでの各部位に起こる病気を診る診療科です。例えば手や足が動かなくなる麻痺症状が起こったとすれば、脳から脊髄、末梢神経を通じて筋肉に達する運動神経系のどこかに異常が生じたと考えられます。そして、その原因としては、血管系の障害、炎症、腫瘍などの様々な可能性が挙げられます。神経内科ではこのような麻痺症状をきたした病気が起こった部位と原因を見つけ出して、治療することを専門としています。

神経内科では運動麻痺以外に、手足のふるえやしびれ、呂律の障害、歩行の障害、頭痛、めまい、物忘れなどの脳神経系に起因すると考えられる様々な症状に対応していますので、ご心配の方はお気軽にご相談ください。ただしこれらの症状を起こす原因として整形外科疾患や精神科疾患などが考えられる場合には、それぞれの専門診療科にご紹介することもあります。

実際に神経内科で扱う病気としては、血管系の異常である脳卒中、身体が震えたり動作が鈍くなったりするパーキンソン病、若い女性に多い片頭痛、脳の感染症である脳炎、免疫の異常が関係する多発性硬化症やギラン・バレー症候群などがあります。ほかにも現在の医学では原因の究明が困難な、いわゆる神経難病の患者さんの診療も行っています。

神経内科を専門とするには特別のトレーニングを受ける必要があり、専門医の数は限られています。神経内科を標榜している医療機関も各地に十分あるとはいえません。日本神経学会のホームページでは各地域の神経内科専門医を探すことができますので、受診時の参考にご活用ください。

 顔面神経麻痺

本稿は、兵庫県保険医協会健康情報テレホンサービス平成21年11月放送の原稿です

つちやま内科クリニック 土山雅人


顔面の表情をつくる筋肉が急に動かなくなって顔が歪んでしまい、片側の目をつぶることができなくなったり、唇がしっかり閉じなくなったりすることがあります。これは顔面神経麻痺と呼ばれる病気で、脳の障害による中枢性の顔面神経麻痺と顔面の筋肉に運動の指令を伝える脳神経の障害である末梢性の顔面神経麻痺とに分けられます。

 中枢性の顔面神経麻痺の場合は、脳卒中や頭部の外傷などに伴って顔面に麻痺を生じるので、通常は麻痺側の手足の動きも悪くなっています。また顔面の麻痺に関しても、顔の上半分の眉や額の部分の筋肉は動かせるのが特徴です。

 一方、末梢性の顔面神経麻痺の場合は、顔の半分が麻痺するために片側の額にシワがよらない、片目だけがウインクできない、口笛を吹くことができない、口角からよだれがこぼれるなどの症状がみられます。さらに顔面神経には、味覚や涙・唾液の分泌に関係したり、鼓膜の緊張を調整する神経も含まれているのでこれらも障害されて、味がおかしくなったり、涙や唾液が上手く出なかったり、耳に音が強く響いたりすることもあります。

末梢性の顔面神経麻痺では、原因がはっきりしないベル麻痺と呼ばれるタイプが多数を占めます。最近ではこのベル麻痺の一部に単純ヘルペスが関与している可能性が指摘されています。このほかには、帯状疱疹ウイルスにより麻痺側の耳の周辺に水疱や痛みを伴って顔面神経麻痺が生じるハント症候群があります。極く稀ですが、サルコイドーシスやライム病などの珍しい病気に伴う場合もあります。

いずれにしても麻痺症状は顔面神経に炎症が起こり、神経が腫れてむくんでしまうために生じます。そのため治療としては、発症早期では神経の腫れをとるためにステロイド剤が用いられます。また必要に応じて抗ウイルス薬が用いられます。その他にもビタミン剤や循環改善剤なども併用されます。さらに神経の血流を良くするために星状神経節ブロックを行う施設もあります。このような治療によって麻痺の大部分は改善しますが、長い場合には回復に数ヶ月かかることもあります。

 注意を要する頭痛

本稿は、兵庫県保険医協会健康情報テレホンサービス平成20年12月の原稿です

つちやま内科クリニック 土山雅人


 ひとくちに頭痛と言っても様々な病気の可能性があります。そのなかには、数的には少ないですが生命に直接係わる注意を要する頭痛があります。

代表的なもののひとつがくも膜下出血です。この頭痛の特徴は突然に起こる激しい頭痛です。不意にバットで殴られたかのような強い頭痛とともに嘔吐をきたし、そのまま意識を失う場合もあります。このような突発的な激痛が生じた場合には直ちに脳外科や神経内科などを受診して検査を受ける必要があります。

一般に発症2日以内では頭部CT検査でほとんどが診断可能といわれています。くも膜下出血の多くは脳血管の一部が膨らんでできた動脈瘤が破裂して起こります。そのため動脈瘤の部位を確認して再破裂しないようにクリップを掛ける手術が行なわれます。最近では脳血管内に細い管を入れて動脈瘤内に細いコイルを詰める手技が行なわれることもあります。

脳ドックの普及により未破裂の脳動脈瘤が見つかることが増えてきました。脳動脈瘤の大きさによっては破裂防止のための予防的な手術が行なわれることがあります。血縁者にくも膜下出血の人がいる場合には念のために頭部MRIによる脳血管の検査を行なっておくことも考えられます。

一方、このような突然の頭痛以外で注意を要するものに、脳腫瘍や慢性硬膜下血腫による頭痛があります。これらは病変が脳を押しのけながら徐々に大きくなるので、一定の期間をかけて痛みが強くなっていくのが特徴です。意識がぼんやりする、手足が上手く動かせなくなるなどの神経症状を伴うことも少なくありません。いずれの場合も早急に手術の適応を判断する必要があります。また、頭痛に発熱を伴うときには、髄膜炎や脳炎に伴う頭痛を考えます。早期に診断を下して、原因になっている細菌やウイルスに応じた治療薬の投与が必要です。

以上、注意を要する頭痛をまとめると、今までに経験したことのないような頭痛、突然におこる激しい頭痛、徐々に強くなっていく頭痛、手足の麻痺や高熱などの症状を伴う頭痛などが挙げられます。

 在宅の胃瘻管理でちょっと困った経験

本稿は、第18回関西PEG・栄養研究会(平成24年6月16日、大阪)での口演要旨です

つちやま内科クリニック 土山雅人


当院ではこれまでに43例の在宅胃瘻患者の訪問診療を行っている。その対象患者は、神経難病37例(パーキンソン病関連疾患18例、筋萎縮性側索硬化症9例など)、アルツハイマー型認知症3例、脳血管障害3例である。

今回はこれらの患者の胃瘻管理において経験したminor troubleについて紹介する。内容は以下の6項目である。在宅胃瘻患者のケアを行うにあたっての参考になれば幸いである。

1)経過に伴う姿位の変化

2)バルーン型胃瘻の再挿入困難

3)バルーンの破損

4)薬剤による閉塞

5)胃瘻部の痛み

6)薬剤性低ナトリウム血症

 西宮市歯科医師会による「無料在宅歯科健診」の利用経験

本稿は、第26回保団連医療研究集会(平成23年9月11日、熊本)での口演要旨です

つちやま内科クリニック 土山雅人


在宅患者の口腔内の健康状態を適切に保つことは在宅療養を支援していくうえで重要な注意事項のひとつである。しかし通院困難な患者では口腔内の健康状態を専門的に評価してもらう機会はなかなか得られない。今回、西宮市歯科医師会による「無料在宅歯科健診」の制度を利用したので、その経験を報告する。

この「無料在宅歯科健診」は、西宮市在住で65歳以上の通院困難な患者の自宅に西宮市歯科医師会の歯科医師が訪問して、口腔内の診査・評価・相談などに応じる制度である。健診により歯科的治療を要する所見が見られた場合は、患者側の希望に応じて引き続いて在宅往診歯科診療(保険診療)に移行することが可能である。

平成22年1月から10月の間に当院のパーキンソン病をはじめとする各種神経疾患の在宅患者11例について「無料在宅歯科健診」を利用した。これらのうちで経口摂取が可能であったものは6例、胃瘻造設をしていたものは5例であった(経口摂取が一部可能なものも含む)。

健診の結果、歯周炎やう歯などの歯科疾患の指摘が2例、義歯不安定の指摘が5例、口腔内乾燥による著明な舌苔の指摘が1例であり、これらは在宅歯科治療や専門的口腔ケアに移行した。ほかにも歯牙動揺の指摘や開口障害で口腔ケア困難の指摘などもあり、これらについても経過観察の要点の指導があるなど、全例において歯科的な面からのアドバイスがあった。

「無料在宅歯科健診」は在宅患者の口腔の健康管理の第一歩として有用であった。

 当院で経験した胃瘻・腸瘻患者44例の検討

本稿は、第17回関西PEG・栄養研究会(平成23年6月18日、大阪)での口演要旨です

つちやま内科クリニック 土山雅人


本邦の年間の新規胃瘻造設(PEG)患者は5〜10万人、全国のPEG患者は30万〜40万人とも言われている。これまでPEG患者の実態については不明の点が多かったが、最近になって国の施策の一環として大規模な全国調査(高齢者医療及び終末期医療における適切な胃瘻造設のためのガイドライン策定に向けた調査研究事業)が行われ、その実情の一端が知られるようになった。これによると日本のPEG患者の1年生存率は66%,そして25%の患者が4年以上生存しているなど、従来の欧米の報告に比べて生存率が高いことなどが明らかになった。

そこで、今回演者はこれまでに当院で経験した44例の胃瘻・腸瘻患者の臨床経過を検証し、「PDN通信」(PEGドクターズネットワーク発行)・第33号、第35号に掲載されている全国調査の結果とも対比しながら検討した。

 多職種の介入で経口摂取が可能になった 重症筋無力症の1例

本稿は、第16回関西PEG・栄養研究会(平成22年6月19日,大阪)の口演要旨です

つちやま内科クリニック 土山雅人


重症筋無力症の経過中にクリーゼをきたし、気管切開、胃瘻造設の状態で在宅療養になった患者(大正15年生まれ)を経験した。本例では言語聴覚士や看護師などの訪問スタッフが嚥下訓練やケアにあたるとともに耳鼻科医とも連携して対応にあたった。その結果、在宅療養開始から1年後に気管切開孔を閉鎖、経口摂取も徐々に増加して在宅療養3年目の現在は経口摂取(ほぼ普通食)と胃瘻からの経管栄養(エンシュアHを1〜2缶弱/日)の併用となっている。ADLレベルも在宅療養当初は歩行不能で車椅子も自操不可であったが、最近では独歩で外出も可能になった。本例の臨床経過について報告し、在宅における多職種連携の重要性について考察する。

 『誤嚥性肺炎について』

難病患者の災害支援(兵庫安全の日推進事業;平成22年3月27日,神戸)の口演要旨です

つちやま内科クリニック 土山雅人


肺炎は日本人の死因の第4位で、肺炎で死亡する患者の90%以上は65歳以上の高齢者である。高齢者でみられる肺炎は、病原体自体の影響よりも、体力や抵抗力の低下などの個々のレベルの全身的な要素の関与が大きいことが指摘されている。その肺炎の多くは嚥下機能の低下に伴う誤嚥性肺炎であり、なかでも明らかなむせのない不顕性誤嚥に伴うことが多い。難病患者においてもこの誤嚥性肺炎について知っておくことは日常の体調管理において重要な事項である。今回は誤嚥性肺炎についてその発症機序などを解説し、肺炎予防としての嚥下機能や咳反射の役割や口腔ケアの重要性について述べる予定である。

 認知症患者の服薬管理をめぐって 〜当院の経験から〜

本稿は、日本プライマリ・ケア学会 第23回近畿地方会での口演発表の要旨です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


本邦の認知症患者は現在200万人(10年後には300万人)にのぼり、すでに65歳以上の高齢者の7〜8%(85歳以上では4人にひとり)は認知症であると推定されている。一方、昨今の家庭を取り巻く環境についてみると世帯総数5000万世帯のうち世帯主が65歳以上の高齢世帯は1500万世帯あり、その20%は単独、35%は夫婦二人暮らしの世帯である。高齢化社会に伴う要介護者の増加で老人が老人を介護する「老老介護」が問題となっているが、最近では独居の認知症患者や認知症患者が認知症患者を介護する「認認介護」の家庭も稀ではなくなっている。
このような介護力の乏しい認知症家庭における服薬管理の問題について当院の経験を通じて考えてみるとともに、西宮における認知症支援のインフォーマルサービスの活動の一部を紹介する。

 脳卒中の「病→診」連携を考える 〜当院の経験から〜

本稿は、第24回保団連 医療研究集会(2009年10月、東京)での発表の要旨です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


2008年の診療報酬改定で脳卒中が地域連携計画管理料の対象となり、地域医療支援病院を核として脳卒中の地域連携が図られるようになった。現在、各地域で脳卒中地域連携パスが作られ、急性期病院から回復期病院、そして慢性期の療養への流れが整備されつつある。
前半の急性期から回復期への部分は、t-PA(組織性プラスミノーゲン活性化因子)治療を始めとする脳卒中診療の進歩や神経リハビリテーション医療の発展を連携させることにより、神経症状の改善や入院期間の短縮が実現するようになった。
後半の回復期から慢性期への部分に関しても、地域のおける「切れ目のない脳卒中医療・脳卒中リハビリテーション」の構築が進められているが、地域の受け皿となる開業医の間では脳卒中患者の受け入れに関しては施設ごとに「温度差」があり十分な理解があるとはいえない。また、一方で病院の専門医にとっても地域の医療レベルを的確に把握することは容易ではなく、脳卒中の「病→診」連携は脳卒中診療の大きな課題である。
今回、各病院から当院への脳卒中慢性期患者の紹介例(30例)をもとに、地域の診療所からみた脳卒中の地域連携について考える。

 当院で経験した筋萎縮性側索硬化症27例の検討

本稿は2009年プライマリケア関連学会連合学術会議(2009年5月、京都)のポスター発表の要旨です

つちやま内科クリニック 土山雅人


【目的】当院で経験した筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症例を通じて、地域におけるALS診療の実際と問題点について考察した。

【対象・方法】2001年10月から2008年12月の間に当院を1回以上受診したALS全27例について診療録の記載をもとに臨床経過を検討した。

【結果】2008年12月の時点で診療継続7例、この間に死亡確認10例(在宅死6例、病院死4例)、転医4例、療養上の相談のみの受診4例であった。これらの症例における問題点として、医療面では救急時や医療処置のための病診連携、介護施設での危機管理、予期しない急死例、特異な病型(球麻痺型や呼吸筋型、認知症を伴うALS、長期経過例など)、ワーファリン服用患者の侵襲的処置、緩和医療(身体的苦痛に対する医療用麻薬の適応など)などが、また介護面では乏しい介護力、経済的負担、新たな人材・資源の活用(ボランティア、スピリチュアルケアの導入など)などが挙げられた。

【結論】ALSの診療では専門施設での診断確定、病名告知に始まり、その後の病状の進行に伴うADLの低下、各種医療処置の導入、終末期のあり方に至るまで、個々のケースで様々な問題が生じる。地域におけるALSのケアにあたっては医療・介護・福祉などの各職種の連携による個別の対応が重要である。

 神経内科の立場からの摂食・嚥下障害への対応

本稿は2009年プライマリケア関連学会連合学術会議(2009年5月、京都)のワークショップ「WS-01摂食嚥下機能に関わる医科歯科地域連携」における講演要旨です

つちやま内科クリニック 土山雅人


1)摂食嚥下の5段階

 一般に摂食嚥下の過程は以下の5段階に分けられます。

\莵坿:食事の認識から始まり、何をどのくらい、どのように口に運んで食べるかの判断し、実行する段階。

⊇猗期:口まで運ばれた食べ物を口腔内に取り込んで、咀嚼し嚥下に適切な食塊を作る(捕食から食塊形成)までの段階。

8腔期:形成された食塊を口腔内から咽頭に送り込む段階。

ぐ頭期:食塊が咽頭部に達した刺激で嚥下反射が惹起されて、食塊が一気に咽頭部を通過する段階。

タ道期:食塊が食道に入ってから胃まで送り届けられる段階。

2)摂食嚥下の神経機構

 摂食嚥下の5段階はいずれも多数の筋肉が、感覚・知覚の情報に基づいて、協調的に働くことにより実行されています。この5段階のうち、前半の\莵坿・⊇猗期・8腔期は自分の意思で運動のコントロールが可能な随意運動で、後半のぐ頭期とタ道期は意図的に運動をコントロールできない反射運動です。

3)摂食嚥下障害の修飾因子

摂食嚥下はそれを取り巻く様々な因子(姿勢、呼吸機能、口腔内の状態、薬剤、食形態、周辺環境など)の影響を受けます。それらの関与によって本来の摂食嚥下の能力が阻害され、摂食嚥下機能に支障をきたすことがあります。

4)摂食嚥下障害のとらえ方

 摂食嚥下は食べ物を取り込んで胃の中に送り込むまでの連続した作業です。前述の5段階のいずれの段階に障害があってもこの摂食嚥下の一連の流れに影響が出ます。摂食嚥下の過程は神経系によってコントロールを受けているだけでなく、周囲を取り巻く諸因子によっても修飾されています。

したがって摂食嚥下障害患者を評価するには、個々の症例の摂食嚥下の全過程をよく観察して、摂食嚥下のどの段階に問題があるのか? 摂食嚥下障害の起こった機序とその原因となる病変はどこか? そして摂食嚥下機能に悪影響を与えている因子はないか? を個々の症例で検討する必要があります。このように摂食嚥下障害の全体像を把握した上で、現在の栄養状態や水分補給の適否の判定、全身状態への影響などの現状を踏まえて、摂食嚥下機能の改善への工夫や周辺環境の整備、あるいは代替栄養の選択などの必要性などを考えていきます。

5)在宅における摂食嚥下障害

 在宅において遭遇することの多い脳血管障害、認知症、加齢、神経難病に注目して、それぞれの病態ごとの摂食嚥下障害の特徴について解説する。

 在宅難病患者の備え 〜在宅神経難病患者の実際と問題点〜

本稿は、難病患者の災害支援(ひょうご安全の日推進事業)(平成21年3月22日、西宮)での口演要旨です。 

つちやま内科クリニック・土山雅人


神経難病では経過とともに運動機能が進行性に低下し、各種の医療処置が必要となることが多い。最近では入院医療から在宅医療への流れの中で家庭で各種の医療機器を使用しながら療養生活を続けているケースが増えつつある。今回、当院における在宅神経難病患者の診療経験を基に難病患者の災害支援について、「移動」、「食事」、「呼吸」、「排泄」、「意思疎通」、および「介護者」にかかわる問題点を検討した。

在宅神経難病患者は避難時の移動が困難であるばかりでなく、避難後にその病状に応じた様々な医療処置や医療機器を必要とすること、老老介護などの介護力の乏しい家庭があり、介護者の体調管理にも配慮する必要があることなどを踏まえて、難病患者の災害支援にあたっては関係各機関が日頃から個々の患者の病態を把握し、その対応を想定しておくことが重要である。

 摂食嚥下の基礎知識・認知症について

本稿は、東京女子医科大学同窓会「至誠会」主催・第3回摂食嚥下のリハビリテーション講演会(平成21年2月、大阪)の講演要旨です。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人



機ダ歐嚥下の基礎知識


1)摂食嚥下の5段階
 一般に摂食嚥下の過程は以下の5段階に分けられます。
\莵坿:食事の認識から始まり、何をどのくらい、どのように口に運んで食べるかの判断し、実行する段階。
⊇猗期:口まで運ばれた食べ物を口腔内に取り込んで、咀嚼し嚥下に適切な食塊を作る(捕食から食塊形成)までの段階。
8腔期:形成された食塊を口腔内から咽頭に送り込む段階。
ぐ頭期:食塊が咽頭部に達した刺激で嚥下反射が惹起されて、食塊が一気に咽頭部を通過する段階。
タ道期:食塊が食道に入ってから胃まで送り届けられる段階。


2)摂食嚥下の神経機構
 摂食嚥下の5段階はいずれも多数の筋肉が、感覚・知覚の情報に基づいて、協調的に働くことにより実行されています。この5段階のうち、前半の\莵坿・⊇猗期・8腔期は自分の意思で運動のコントロールが可能な随意運動で、後半のぐ頭期とタ道期は意図的に運動をコントロールできない反射運動です。


3)摂食嚥下障害の修飾因子
摂食嚥下はそれを取り巻く様々な因子(姿勢、呼吸機能、口腔内の状態、薬剤、食形態、周辺環境など)の影響を受けます。それらの関与によって本来の摂食嚥下の能力が阻害され、摂食嚥下機能に支障をきたすことがあります。


4)摂食嚥下障害のとらえ方
 摂食嚥下は食べ物を取り込んで胃の中に送り込むまでの連続した作業です。前述の5段階のいずれの段階に障害があってもこの摂食嚥下の一連の流れに影響が出ます。摂食嚥下の過程は神経系によってコントロールを受けているだけでなく、周囲を取り巻く諸因子によっても修飾されています。
したがって摂食嚥下障害患者を評価するには、個々の症例の摂食嚥下の全過程をよく観察して、摂食嚥下のどの段階に問題があるのか? 摂食嚥下障害の起こった機序とその原因となる病変はどこか? そして摂食嚥下機能に悪影響を与えている因子はないか? を個々の症例で検討する必要があります。このように摂食嚥下障害の全体像を把握した上で、現在の栄養状態や水分補給の適否の判定、全身状態への影響などの現状を踏まえて、摂食嚥下機能の改善への工夫や周辺環境の整備、あるいは代替栄養の選択などの必要性などを考えていきます。


供デ知症について
高齢化社会の到来とともに認知症の患者さんは年々増加しています。一口に認知症といっても、そのなかには種々の疾患が含まれています。これまでは「アルツハイマー型認知症」と「血管性認知症(脳血管障害の後遺症としての認知症)」のふたつが取り上げられることが多かったですが、最近では「レビー小体型認知症」や「前頭側頭型認知症」などの新たなタイプの認知症にも注目が集まってきています。また明らかに病的とは言えないまでも、年齢を考慮しても正常とは言い難い境界レベルの認知機能の低下は「軽度認知障害」と称されるようになり、認知症の早期診断・早期治療の意義が検討されています。
認知症は成人になってから起こる記憶と知能の障害で、これらを認知症の「中核症状」と称します。記憶障害は物忘れのことですが、加齢に伴う「良性の物忘れ(正常者の物忘れ)」と「悪性の物忘れ(病的な物忘れ)」を区別して考える必要があります。前者では、例えば食事で食べた物の内容を忘れることはあっても食事を食べたこと自体を忘れることはありません。後者では、食事をしたことすら忘れてしまい何回も食事をせがむことになります。認知症では後者の悪性の物忘れがみられます。
知能の障害とは日常生活を営むにあたっての判断力の障害を指します。朝起きて更衣や洗面をすることから始まり、仕事や家事をするにもあたっても過去の経験に照らし合わせて、今から何をすべきかを考えて人は日ごろから行動しています。認知症が進むとこの判断力が低下し、社会生活に支障をきたします。
認知症の人は自分自身の客観的な症状に気がつきにくいものですが、「自分は昔の自分ではなくなってきた」といった漠然とした感覚を持っていることは少なくありません。自分の残された能力を精一杯使って生活を続けていますが、常に不安な気持ちやイライラした気分でストレスを抱えたまま日々を過ごしています。そのため気分が高まりすぎて落ち着きをなくしたり、周囲の人にやつあたりしてトラブルになることがあります。このような周囲との軋轢によって生じる問題は認知症の周辺症状と呼ばれます。
認知症の人たちの個々の状態は、中核症状と周辺症状の組み合わせにより様々な特徴を持つことになります。中核症状は医学的な対応が、周辺症状には周囲の環境的な配慮が重要です。

 シャルコー膝関節を伴った脊髄癆の1例

*本稿は、日本プライマリ・ケア学会第22回近畿地方会(平成20年11月16日、大阪)の口演要旨です。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


 シャルコー膝関節を伴った脊髄癆の1例経験したので報告する。症例は50歳代の男性 。平成7年に歩行障害が出現し、脊髄癆の診断で駆梅療法を受けた。感覚性運動失調 のため車椅子生活だったが、平成18年になって右膝を中心に下肢の腫脹あり。画像検 査で右膝関節の著明な破壊像を認め、シャルコー膝関節と考えられた。整形外科で装 具作成などを行い右膝部の腫脹は軽減していたが、その後MRSAによる右化膿性膝関節 炎から敗血症を来たし死亡した。高度の感覚障害を持つ患者において、下肢などの関 節の無痛性腫脹を認めた場合は、シャルコー関節の発症を考え、早期から専門的な対 応を考慮する必要がある。

 当院における在宅経管栄養患者の検討 −特に低コレステロール血症、低ナトリウム血症について−

本稿は、第14回関西PEG・胃瘻研究会(平成20年6月21日、大阪)の口演要旨です。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


 当院での在宅経管栄養患者27例について経管栄養導入後から1年ごとの採血結果(最長6年目まで)を分析し、低コレステロール血症(総コレステロール130mg/dl未満)、低ナトリウム血症(血清ナトリウム135mEq/l未満)を呈した症例について検討した。

一部の患者に総蛋白などの栄養マーカーの動きとは別に、低コレステロール血症をきたす場合がみられた。低ナトリウム血症に対してはナトリウムの補給だけではなく、体内水分の動態を検討する必要性が示唆された。長期に経管栄養を行なっている症例では、栄養状態の評価のみならず電解質や水分量、その他の体内環境に影響する諸要素(内分泌的異常など)にも注意すべきである。



 神経内科からみた摂食嚥下障害 −神経難病の訪問診療の実際−

本稿は、大阪歯科保険医新聞第953号(2007年9月5日)に掲載されました(図表は略します)。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


 当院における神経難病の訪問診療の経験をもとに、在宅神経難病患者の栄養管理の実際などについて解説します。

1.在宅寝たきり者の臨床像(表1)
 平成14年度末の要介護等認定者総数344.5万人(うち65歳以上の介護保険サービス受給者269.0万人)のうちで、重度の要介護4は41.9万人(同じく36.3万人)、要介護5は40.9万人(同じく33.9万人)でした。その後も中等度から重度の要介護認定者は年々増加しています。昨今の入院医療から在宅療養への流れの中で、在宅で過ごすことを余儀なくされる重度の要介護者は着実に増えています。 少し古い資料ですが、平成13年の国民生活基礎調査によると、在宅での寝たきり者の総数は35.6万人(全く寝たきり:16.7万人、ほとんど寝たきり:18.9万)です。その原因疾患(調査数=36,573)として最も多いものは「脳血管障害(36.6%)」で、以下、「痴呆(認知症)」、「転等・骨折」、「高齢による衰弱」、「関節疾患(リウマチなど)」と続き、第6位に「パーキンソン病(に代表される神経難病、5.5%)」が挙げられています。また、65歳以上の寝たきり者のなかで、寝たきりの期間が3年以上の長期にわたる者は48.7%と約半数を占めています。

2.当院における神経難病の訪問診療(表2、3、4)
 当院(つちやま内科クリニック・http://www.tutiyama- clinic.com/)は平成13年10月に西宮市段上町(阪急電車・甲東園駅近く)に新規開業した無床診療所です。勤務医師は日本神経学会神経内科専門医の院長のみ、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所などの併設はなく、「在宅療養支援診療所」の登録はしていません。   当院では14年7月から午前・午後の診療時間の合間に主に在宅の神経難病患者を対象に訪問診療を行ってきました。14年7月から18年12月の間に3ヶ月以上の訪問診療を行った慢性進行性の難治性神経疾患(いわゆる神経難病)は全51例でした。そのなかには表2に示すように、10歳代・20歳代の若年者や40歳代・50歳代の比較的若い頃から通院不能となった症例もあり、また3年以上にわたって継続して訪問診療を行っている症例も少なからず含まれていました。家庭環境では同居家族が1名のみ(その多くが高齢の配偶者)で介護力が乏しい家庭が全体の半数近くを占めていました。疾患の内訳は表3に示すように、前回(「神経内科からみた摂食嚥下障害◆廖歐牲估馼造隆霑鍛亮院檗砲納茲蠑紊欧織僉璽ンソン病関連疾患、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症などが多数を占めていました。18年12月時点のまとめでは、表4のごとく訪問診療継続中が30例、入院・入所中が6例、死亡が14例、転居で不明が1例でした。

3.在宅神経難病患者の臨床経過の特徴と栄養管理 (表5、6)
 これらの神経難病の訪問診療の経験から、筆者が考える在宅神経難病患者の臨床経過の特徴を表5に示します。神経難病は進行性に運動機能が低下します。すなわち、移動に障害が起こるために在宅療養となり、摂食・嚥下に障害が起こるために代替栄養、呼吸に障害が起こるために補助呼吸、排泄に障害が起こるために尿路管理、意思伝達に障害が起こるためにコミュニケーションツールが必要となるなど、経過とともに種々の医療処置や高度なケアが増加していきます。あらかじめ先々起こりえる可能性についてお話しはしますが、このような病状の進行に対して、本人・家族の理解と受け入れは簡単ではありません。しかし、現実の病状の進行に伴って本人の身体的苦痛と精神的苦悩は増大し、同時に乏しい介護力のなかで介護者への様々な負担も増していきます。神経難病は癌のような悪性疾患ではありませんので、最終的に症状が固定化すると終日臥床状態で経管栄養、人工呼吸、持続導尿の状態で療養が長期化することになります。  自験例の栄養管理(代替栄養)の状況は、訪問診療開始時にすでに経口摂取が困難で経鼻胃管留置が2例、胃瘻造設済みが7例でした。訪問診療期間中に摂食嚥下障害が進行したために、新たに経鼻胃管留置を2例、胃瘻造設(経皮内視鏡的胃瘻造設術:PEG)を8例(うち1例は経鼻胃管からの移行)、胃癌手術後で胃瘻造設ができずポート植え込み(中心静脈路)を行なったものが1例でした。胃瘻を有する計16例について胃瘻造設に至った経緯をみると、将来の摂食嚥下障害の進行に備えて事前の栄養路の確保のためが7例(多くは胃瘻造設後も経口摂取と胃瘻からの経管栄養の併用が可能)、肺炎や呼吸不全による入院をきっかけに緊急避難的に造設が8例(うち2例は同時に気管切開施行)でした。 神経難病では機能維持の訓練を心がけていても、摂食嚥下障害の進行は避けられません。個々の患者の「食への想い」を大事にしながらも、栄養状態や水分摂取の状況、肺炎・窒息の危険性などを考慮して適切な時期に適切な代替栄養法を導入する判断することが、在宅主治医の大きな役割のひとつです。

4.在宅医療と医科歯科連携
在宅神経難病患者では医療依存度の高い症例が多いので、医療・看護(訪問看護ステーション)・介護(ケアマネージャー、ホームヘルパー、訪問入浴サービスなど)の各職種との連携が重要です。医療面では専門診療所(泌尿器科や皮膚科などの診診連携)や緊急入院時の病院との連携(病診連携)に加えて医科歯科連携による訪問歯科診療が欠かせません。神経疾患では筋緊張の異常(ジストニアなど)による開口障害や著明な頚部後屈、不随意運動などを伴う場合があるため、通常の口腔ケアにも難渋することが少なくありません。西宮では歯科医師会の歯科総合福祉センターを通じてこのような困難例にも対応してもらっています。

5.おわりに
神経難病では疾患特有の進行性のADLレベルの低下があり、経過に伴って医療依存度が上昇し、在宅医療の技術も高度化・ハイテク化していく特性があります。今後、在宅神経難病患者の増加と在宅療養期間の長期化が予想されますが、それを内部から支える家庭の介護力が乏しい状況であるだけでなく外部から支える医療資源も十分とはいえません。歯科のなかにも神経難病にご興味を持っていただける先生がさらに増えることを期待して連載を終わります。

文 献
1) 土山雅人:Parkinsonismの3症例における嚥下障害の検討.西宮市医師会医学雑誌 8:17-19,2003.
2) 土山雅人:神経難病の在宅診療 −当院の経験から−.兵庫県医師会医学雑誌 47:53-56,2004.
3) 土山雅人:在宅神経難病患者の臨床経過 −特に嚥下機能,呼吸機能の低下について−.西宮市医師会医学雑誌 10:36-38,2005.
4) 土山雅人:神経難病の在宅診療(第2報) −当院における30例の経験から−.兵庫県医師会医学雑誌 48:116-120,2006.
5) 土山雅人:在宅神経難病患者の臨床経過(第2報) −自験例における胃瘻造設,気管切開の検討−.西宮市医師会医学雑誌 12:43-45,2007.



 神経内科からみた摂食嚥下障害 −神経難病の基礎知識−

本稿は、大阪歯科保険医新聞第951号(2007年8月15日)に掲載されました(図表は略します)。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


 今回は神経難病について解説します。根本的な治療方法がないために「難病」と呼ばれているわけですが、 栄養や呼吸を補助する医療技術の向上により神経難病患者の生命予後は一昔前に比べて延長しています。本稿では神経難病の概要と代表的な神経疾患を取り上げます。

1. 神経難病の概要(表1、2、3)

 一般に治療が困難で慢性の経過をとる疾患が社会通念上「難病」と理解されています。国の難病対策の出発点である昭和47年の難病対策要綱では、難病は「(1)原因不明、治療方針未確定であり、かつ、後遺症を残す恐れが少なくない疾病、(2)経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病」と定義されています。「難病」とは特定の疾患をさすものではなく、その内容はそれぞれの時代の医療水準や社会事情に応じて変化します。 国の難病対策においては、いわゆる難病のうちでも特に全国的な規模での研究が必要な疾患を「特定疾患」と定め、様々の分野の計123疾患が調査研究の対象となっています。そのうちの45疾患は公費負担助成として医療費の一部が助成されており、神経・筋疾患に分類されるものが12疾患(調査研究対象の神経・筋疾患は全23疾患)含まれています。狭い意味での「神経難病」はこれらの医療費助成制度の対象となっているものをさす場合が多いようです。全国および大阪府の主な神経難病(上位4疾患)の特定疾患医療受給者証の交付件数(平成17年度)は表3に示すごとくで、患者数は全国的に増加傾向にあります。

2.主な神経難病の臨床的特徴

1)パーキンソン病関連疾患(表4)

 平成15年から既存のパーキンソン病(PD)に加えて進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)のパーキンソン症状(後述の運動症状)を主体とする3疾患をパーキンソン病関連疾患と総称するようになりました。神経難病のなかでも最も患者数の多いPDを中心に述べます。  PDの有病率は人口10万人あたり100人超とされています。一般に60歳前後での発症が多いですが、高齢になるにつれて発病率も高まります。本疾患は脳幹上部の中脳にある黒質のドパミン産生細胞の原因不明の変性・脱落によって発症する進行性の神経変性疾患です。通常は弧発性に発症しますが、稀に家族性のケースもみられます。 症状としては初期から中期にかけては、振戦、無動、筋固縮、姿勢保持反射障害などの運動症状(これらを四大症状と称します)が主体です。長期の経過とともに精神症状(抑うつ、睡眠障害、認知症症状など)や自律神経症状(起立性低血圧、排尿排便障害、体温調節障害など)が加わり、さらに薬効の減弱や不安定化もみられるようになり病態は複雑化、難治化します。  治療は薬物療法が中心になります。脳内で不足するドパミンを補充するためのドーパ剤をはじめ、ドパミン受容体刺激剤、抗コリン剤、MAO-B阻害剤などの多種類の抗パーキンソン病薬を個々の病状に応じて単独あるいは組み合わせて投与します。病気自体を根本的に治療できないものの、最近でも新たな機序で作用するCOMT阻害剤が実用化されるなど臨床的に症状をコントロールする方策は増えつつあります。ほかにもリハビリテーションや栄養管理、生活指導などの配慮もあいまって、現在では発症から10年ほどは日常生活の活動性も比較的良好に保つことができるようになっています。生命予後に関しても一般人口の平均余命に近い成績が得られています。  PSPやCBDもパーキンソン症状にそれぞれ特有の神経症状を伴った神経変性疾患ですが、PDよりもさらに広い範囲の神経系が障害を受けるために抗パーキンソン病薬の効果は期待できません。これらは数年程度で寝たきり状態になることが少なくありません。

2)脊髄小脳変性症(表5)

 脊髄小脳変性症(SCA)は人口10万人あたり5〜10人の比較的稀な疾患です。小脳を中心とした神経系の原因不明の変性によって、運動失調症状(筋力の低下はないが、一連の筋肉を協調的に動かせないので適切な動作ができない状態)を主体とする神経症状を呈する疾患群の総称です。最近の遺伝子研究の結果ではこの疾患に属する患者の約40%に各種の遺伝子異常が発見され、病名の細分化(SCA1、2・・、ジョセフ病、DRPLAなど)がすすめられています。  一般にSCAは歩行時のふらつきや呂律の障害などで発症することが多いですが、種々の背景を持つ疾患の集まりであるためにその経過や付随する症状は個々のケースで様々です。進行の早いものものでは数年以内に寝たきりになりますが、10年以上経過してもなんとか自力で歩けるケースもあります。

3)多系統萎縮症(表6)

 多系統萎縮症(MSA)には、線条体黒質変性症(SND)、オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)、シャイ・ドレーガー症候群(SDS)の3つの疾患が含まれます。これらは共通した神経病理学的変化を伴うところから、平成15年よりひとつのカテゴリーに分けられるようになりました。 臨床的には、SNDはパーキンソン症状、OPCAは運動失調症状、SDSは自律神経症状で発症しますが、経過とともに各々の症状が重なり合うようになり、最終的には数年程度で臥床状態になります。

4)筋萎縮性側索硬化症(表7)

 運動神経系が選択的に脱落・消失する変性疾患で、多くは中年期に発症します。発病率は人口10万人あたり0.5〜2人、有病率は3〜5人程度とされています。脳神経系(球筋など)、上肢、体幹(呼吸筋など)、下肢の各部位の筋力低下、筋萎縮を生じ、しだいに全身性の運動麻痺をきたします。 一般に3〜4年ほどの経過で球筋や呼吸筋の麻痺をおこし自力での食事や呼吸ができなくなりますが、最近では栄養管理(胃瘻など)や呼吸管理(気管切開、人工呼吸器など)の進歩によって5〜10年以上の長期の生存例も増加しています。ちなみに兵庫県では約300人のALS患者がいますが、そのうち約100人は人工呼吸器を装着しています。この人工呼吸器の患者のうちの三分の二は在宅で療養中です。



 神経内科からみた摂食嚥下障害 −摂食嚥下の基礎知識−

本稿は、大阪歯科保険医新聞第948号(2007年7月5日)に掲載されました(図表は略します)。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


最近の人口の高齢化や疾病構造の変化に伴い摂食嚥下機能に障害を持つ者やその予備軍が増加しています。また、今後の療養病床削減や在宅医療への誘導などによって、在宅の場で神経疾患などの種々の病態を持つ摂食嚥下障害患者に遭遇する機会も増すものと思われます。 これから3回にわたって、訪問診療をおこなっている神経内科医の立場から摂食嚥下障害について解説します。今回は「摂食嚥下の基礎知識」として摂食嚥下のメカニズムについて取り上げます。以後は「神経難病の基礎知識」、「神経難病の訪問診療の実際」と続きます。

1. 摂食嚥下の5段階(図1)

 一般に摂食嚥下の過程は、1)先行期、2)準備期、3)口腔期、4)咽頭期、5)食道期の5段階に分けられます。

1)先行期:食事の認識から始まり、何をどのくらい、どのように口に運んで食べるかの判断し、実行する段階です。視覚や嗅覚などの感覚を通じて過去の食事の記憶がよみがえり、自律神経系を介して消化器官が食事を受け入れるための活動(唾液の分泌や腸管の蠕動運動など)を開始します。食べ物を口まで運ぶには食事の際の姿勢や手指の巧緻性などの身体的な運動能力が問題になります。

2)準備期:口まで運ばれた食べ物を口腔内に取り込んで、咀嚼し嚥下に適切な食塊を作る(捕食から食塊形成)までの段階です。食べ物を口唇でとらえた時点でその形態や硬さ、温度などが認識され、その食形態に応じた咀嚼運動が実行されます(液体状のものは咀嚼を経由せずに咽頭に送り込まれます)。適切な食塊形成には口唇や舌、咬筋などの協調的な運動、歯牙や歯肉、顎の状態、唾液分泌などの因子が良好に機能する必要があります。

3)口腔期:形成された食塊を口腔内から咽頭に送り込む段階です。舌の動きとともに、口唇と鼻咽腔がしっかり閉鎖されて口腔内圧が高まることで、食塊は咽頭に送り込まれ、次の咽頭期につながる嚥下反射が誘発されます。

4)咽頭期:食塊が咽頭部に達した刺激で嚥下反射が惹起されて、食塊が一気に咽頭部を通過する段階です。咽頭期は0.5秒程度の反射運動です。この間に喉頭が前上に引き上げられて、喉頭蓋の倒れこみと声門の閉鎖により気管への流入が防がれるのとともに、食道入口部が開いて食塊が食道内に押し込まれていきます。

5)食道期:食塊が食道に入ってから胃まで送り届けられる段階です。食道筋の反射運動である蠕動運動や重力の働きで食塊は数秒程度で胃の噴門まで達します。

2. 摂食嚥下の神経機構(図2、3)

 摂食嚥下の5段階はいずれも多数の筋肉が、感覚・知覚の情報(感覚入力)に基づいて、協調的に働くことにより実行(運動出力)されています。この5段階のうち、前半の1)先行期・2)準備期・3)口腔期は自分の意思で運動のコントロールが可能な随意運動であり、後半の4)咽頭期と5)食道期は意図的に運動をコントロールできない反射運動です。  1)先行期・2)準備期・3)口腔期:食事の認識や食事の記憶などは大脳レベルの高次脳機能によって処理されています。姿勢の保持や手指のスムーズな運動には運動出力のための運動神経系や感覚のフィードバックのための感覚神経系、そして運動機能の調節のためには小脳系の働きが重要になります。捕食や咀嚼、咽頭への食塊の送り込みに関しても、口腔内の感覚情報や運動指令を伝える脳神経系(三叉神経、顔面神経、舌下神経など)と運動の調整をする小脳系の働きが連動して実行されています。  4)咽頭期:嚥下反射は脳幹下部の延髄にある嚥下中枢の働きで起こります。食塊が咽頭部の嚥下反射誘発部位に達すると、その刺激は嚥下中枢に伝えられ感覚入力が一定の閾値に達すると、中枢性パターン形成器(central pattern generator;CPG)を活性化させます。このCPGは嚥下運動を実行する運動神経系を決まったパターンで働かせて、ステレオタイプの嚥下反射が実行されます。またこの間にCGPは呼吸中枢にも働きかけて、嚥下の最中に呼吸を一時停止させます。嚥下反射は極めて再現性の高い運動で、all-or-noneに発現するのが特徴です。 5)食道期:食道の蠕動運動は食道壁に分布している自律神経を介してコントロールされています。食道から胃・腸につながる消化管の蠕動運動は、副交感神経系(迷走神経)の興奮で活発となり、交感神経系の興奮で抑制されます。

3.摂食嚥下障害の修飾因子(図4)

摂食嚥下はそれを取り巻く様々な因子の影響を受けます。そのため本来の摂食嚥下の能力が阻害されて、摂食嚥下機能障害をきたすことがあります。

1)姿勢:頚部が過伸展したり肩や腕、背部などに過剰な力が入ってこわばってしまうと食べ物を上手く口に運べません。椅子・机の高さも本人に合っていないと姿勢が安定せず、食事がしにくい原因になります。

2)呼吸:嚥下の瞬間にはそのつど呼吸を止める必要があります。心肺機能の低下した人では食事摂取が身体的な負荷になり、易疲労性のために十分食事が摂れないことがあります。肺活量の低下した人では咳反射の力も弱くなり、誤嚥時のリスクになります。

3)口腔内環境:う歯や不適切な義歯などの咀嚼に直接関係するもの以外にも、口内炎や舌苔、口腔乾燥などで口腔内の環境が悪化すると食塊形成に影響がでます。口腔内の衛生状態が悪いと誤嚥性肺炎の可能性が高いことも良く知られています。

4)薬剤:一部の薬剤は唾液分泌の低下や味覚障害、歯肉増生、覚醒度の低下などによって、摂食嚥下機能に支障をきたすことがあります。また逆に嚥下反射を高めて誤嚥のリスクを下げる方向に働く薬剤もあります。

5)食形態:摂食嚥下障害があるからといって一律に食べ物を刻んだりとろみ剤を使用することは望ましくありません。個々の摂食嚥下機能に配慮した適切な形態の食事を考慮する必要があります。

6)その他:身体的な能力に応じた食器や家具、個人の嗜好を配慮した食事内容など、楽しく美味しく安全に食事ができる環境作りが必要です。

4.摂食嚥下障害のとらえ方(図5)

 摂食嚥下は食べ物を取り込んで胃の中に送り込むまでの連続した作業です。前述の5段階のいずれの段階に障害があってもこの摂食嚥下の一連の流れに影響が出ます。これまで述べたように摂食嚥下の過程は神経系によってコントロールを受けているだけでなく、周囲を取り巻く諸因子によっても修飾されています。 したがって摂食嚥下障害患者を評価するには、個々の症例の摂食嚥下の全過程をよく観察して、摂食嚥下のどの段階に問題があるのか?、摂食嚥下障害の起こった機序とその原因となる病変はどこか?、そして摂食嚥下機能に悪影響を与えている因子はないか?、を個々の症例で検討する必要があります。このように摂食嚥下障害の全体像を把握した上で、現在の栄養状態や水分補給の適否の判定、全身状態への影響などの現状を踏まえて、摂食嚥下機能の改善への工夫や周辺環境の整備、あるいは代替栄養の選択などの必要性などを考えていきます。



 当院で経験した中大脳動脈閉塞の2例

本稿は、日本プライマリ・ケア学会第21回近畿地方会(平成19年11月25日、奈良)での口演要旨です。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


比較的軽微な症状で来院し、中大脳動脈(水平部)の閉塞が判明した2症例(65歳女性、44歳女性)を経験した。いずれもMR検査(T2協調画像・拡散協調画像)では異常はなかったがMRAで中大脳動脈が描出されず、専門施設で脳血管造影にて中大脳動脈の閉塞が確認された。脳循環動態の精査の結果、当該部位の貧困灌流状態が認められたため、頭蓋内外血管バイパス術(浅側頭動脈・中大脳動脈吻合術)が施行された。術後の経過は両者とも良好であった。 脳内の主幹動脈に高度な閉塞性病変があっても、MR画像上梗塞巣が見られず、臨床的にも重篤な神経症状を呈しない症例がある。このような場合は局所の脳循環・代謝の状態を検討して、それに応じた適切な処置を行うことが重要である。そのためには専門的な検査が可能な施設との連携が不可欠である。



 神経難病の訪問診療 −当院の5年間の経験から-

本稿は、兵庫県医師会60周年記念医学会(平成19年11月11日)の口演要旨です。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


【目的】当院では神経難病の訪問診療を始めてから5年が経過した。この間の経験を通じて在宅神経難病患者の実際と訪問診療の問題点について検討した。
【対象及び方法】2002年7月から2007年6月までに3ヶ月間以上の訪問診療を行った在宅神経難病患者(パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症など)は51例であった。これらの患者の診療記録を基に考察を加えた。
【結果及び考察】在宅神経難病患者では、経過中に容態の変化や新たな医療処置、あるいはレスパイトなどで入院(緊急入院を含む)を要することがあり、診療所と病院との密接な連携(病診連携)が必要である。死亡例では肺炎などの治療目的で入院後に亡くなったものが過半数を占めていた。また、予期しない突然の死亡例も少なからずみられ、在宅の看取りに至った症例は限られていた。 神経難病は経過とともに進行性に運動機能(移動、摂食・嚥下、呼吸、排泄、意思伝達など)が低下する。このような病状の進行を本人・家族が理解し受け入れるには十分な病態の説明が必要である。病状の進行に伴い本人の身体的苦痛と精神的苦悩は増大し、症状の固定と療養の長期化に至るために、もともと乏しい介護力のなかでさらに介護者への負担(肉体的、技術的、時間的、精神的、経済的など)も増加する。在宅患者の医療環境のみならず、療養環境にも配慮する必要がある。



 パーキンソン病と腸閉塞

−日常診療の中の脳神経内科(その4)−本稿は、第16回日常診療経験交流会(平成19年10月21日、神戸)での口演要旨です。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


腸閉塞症状を繰り返し、最終的に腹膜炎などの合併症で死亡したパーキンソン病の2症例を報告する。パーキンソン病では、迷走神経系を中心とした中枢性の病変と腸管神経叢を中心とした末梢性の病変を伴うことから腸管運動の障害が起こりやすい。そのため高頻度に便秘を伴うことは知られているが、なかには稀ながら重篤な腸閉塞を起こすことがあり、生命予後に影響する場合もみられる。パーキンソン病では日ごろからの便通管理が重要である。



 在宅胃瘻患者の現状と問題点

−訪問看護ステーションへのアンケート結果から−

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


在宅療養を行っている胃瘻患者の現状と問題点を検討するために、当地の訪問看護ステーション(訪問看護ステーションネットワーク西宮の23施設)にアンケート調査を実施した。 現在在宅でケアを受けている胃瘻患者は合計115名であった。これらの患者の胃瘻造設からの期間、原疾患、胃瘻の種類、胃瘻交換の場所などを分析した結果を報告する。さらに訪問看護師の立場からの問題点(スキントラブルや栄養剤の逆流などの日々の胃瘻管理の問題以外に、病院退院時の指導内容、在宅主治医との連携、必要物品の補給、病院で胃瘻交換をする際の負担など)についても述べる。 在宅における胃瘻管理は数年以上の長期にわたることがあり、使用される器具も多様である。また、主治医・看護師とも胃瘻管理の経験は様々でチームとして取り組む姿勢にも差異がある。地域における継続的な胃瘻のケアを行っていくには手技の一定の標準化・共通化が必要である。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 パーキンソン病とジェームス・パーキンソン先生

本稿は、「全国パーキンソン病友の会 兵庫県支部 −20年の軌跡−」(平成19年3月発行)に掲載されました。

つちやま内科クリニック(西宮)・土 山 雅 人


 全国パーキンソン病友の会 兵庫県支部結成20周年をお祝い申し上げます。
 これまで何回か友の会でパーキンソン病についてお話させていただきました。パーキンソン病と付き合っていくにはその病気についてよく知ることが必要と考え、相談会の席ではパーキンソン病の歴史について簡単に語るようにしています。  今回はパーキンソン病が見出された頃について記してみます。

 パーキンソン病は、この病気を初めて医学論文として発表したイギリスの医師ジェームス・パーキンソン(1755−1824)にちなんで名づけられた病気です。このパーキンソン先生(以下、先生と略す)は非常に多才で博学の士だったようで、いろいろな医学研究のほかにも古代生物学や地質学、化学などの分野でいくつか論文を書いています。
また、政治の世界でも活躍したことが知られています。先生はロンドンで開業医として診療にあたっているうちに、手足がふるえて身体が硬くなり、しだいに歩きにくくなるといった特徴的な症状を持つ患者さんに気がつきました。そしてこのような患者さん6人(このうち2人はたまたま街で出会った人だそうです)の病状を詳しく調べて1817年に「an essay on sharking palsy(和訳すると、‘振戦麻痺についての小論‘)と題した小冊子の論文を発表しました。当時先生は若干42歳でした。ちなみに、この1817年(文化14年、第11代将軍徳川家斉の時代)は日本ではイギリス船が浦賀に来航した年で、その4年後の1821年には伊能忠敬が日本全図を完成させています。
 しかし当時はこの論文は医学会からはあまり関心をもたれず、先生が存命中はこの病気は注目されないままでした。先生の没後何十年もたった1880年代になって、やっとフランスの有名な神経学者であるジャン・マルタン・シャルコー博士によって再評価されました。そしてこれまで知られていなかったひとつの疾患を世の中に初めて発表した業績をたたえるために、当初の「振戦麻痺」という名称は「パーキンソン病」と名づけられるようになりました。このようにパーキンソン病はその発見から専門家の間に知られるようになるまでにすでに半世紀以上の年月が経過しており、病気の研究もそれだけ遅れてしまったとも言えます。一方、日本では1890年頃(明治20年代)になって初めてパーキンソン病と考えられる病状の記載が専門誌に発表されているそうです。
 数年前から先生の誕生日の4月11日は「世界パーキンソン病の日」として、世界各国でパーキンソン病の啓発活動や研究報告がなされています(今年は先生の生誕250周年でした)。パーキンソン先生については、豊倉康夫著の「ジェイムズ・パーキンソンの人と業績」(診断と治療社)という本に詳しく書かれています。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)

 一般診療所による神経難病の訪問診療

本稿は、厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 『重症難病患者の地域医療体制の構築に関する研究班(糸山班) 平成18年度総括・分担研究』(2007年1月,東京)の口演要旨です。


分担研究者:高橋桂一(高橋神経内科・内科クリニック)
研究協力者:土山雅人(つちやま内科クリニック)=発表者
市川桂二,利根川美知恵(兵庫県難病相談センター)
増田宗義,高垣正弘(兵庫県健康生活部健康局疾病対策課)


研究要旨
都市部で開業している診療所の立場からみた神経難病患者の在宅医療の現状と問題点を検討した。神経難病では一定の期間のうちに症状が進行するために、経過中に各種の医療処置が必要になることがある。高度化する在宅療養を支えるためには、専門的な知識や技能を持った多くの職種との連携が必要になる。このような他職種・多職種との連携には地域に根付いた診療所の役割が重要である。

【目的】都市部の一般診療所(非訪問専門診療所)の訪問診療の経験を通じて、神経難病の在宅医療における診療所の役割について考察した。

【方法】兵庫県西宮市のつちやま内科クリニック(無床診療所、医師1名=神経内科専門医、訪問看護ステーションなどの関連施設なし)で、2002年7月から2006年6月の間に3ヶ月以上訪問診療を行なった慢性進行性の難治性神経疾患(神経難病)の計34例について診療録をもとに訪問診療の実態を調べた。これらの神経難病の内訳は、パーキンソン病関連疾患17例、筋萎縮性側索硬化症9例、脊髄小脳変性症4例、多系統萎縮症2例、多発性硬化症 1例、ハンチントン病1例であった。

【結果】在宅療養の背景(罹病期間、家族背景など)、訪問診療開始時と経過中に新たに行った各種の医療処置(胃瘻増設、気管切開など)、経過中の緊急入院、転帰、医療連携体制(病診連携、診診連携、医歯連携、医薬連携、医看連携、医介連携など)などの項目について検討した。その結果、在宅神経難病患者は、進行性に運動機能(移動、摂食・嚥下、呼吸、意思疎通など)が低下して経過とともに各種の医療処置が必要になることが多くなること、高齢者の二人暮らしの家庭などの介護力が乏しいケースが少なくないこと、肺炎などによる緊急の入院治療やレスパイト入院を依頼するために後方病院との連携が必要なこと、医科のみならず他職種・多職種との連携が重要なことなどが示唆された。

【考察】兵庫県における平成17年度末時点の主な神経難病患者数(特定疾患医療受給者証交付数)は、パーキンソン病関連疾患3884例、脊髄小脳変性症761例、多系統萎縮症399例、筋萎縮性側索硬化症291例などで、いずれの疾患も全国規模で前年より増加傾向にある。また、兵庫県では筋萎縮性側索硬化症患者の三分の一は人工呼吸器を装着しており、そのうちの半数以上は在宅療養をおこなっているなど在宅医療のハイテク化も進んでいる。昨今の入院医療から在宅医療への流れを踏まえると、今後もますます神経難病の在宅診療は増加することが予想され、さらにその医療内容は高度化するものと思われる。このような増加する在宅神経難病患者を支えるためには、地域に根付いた診療所の活躍が不可欠である。 今回の一診療所での訪問診療の経験から在宅神経難病患者の療養生活の実態の一部が浮かび上がったが、その中でも介護力不足の家庭への対応やケアにかかわる関連職種との情報の共有化などの多くの問題点があることが認識できた。さらに今後は神経難病医療自体の質的向上(身体的苦痛の緩和、スピリチュアルケアの可能性、ターミナルケアの展開、在宅療養破綻例への対策など)とともに神経内科の基礎知識の上にたった各職種のスキルアップの場の提供、より多くの専門職種が在宅の場に介入できる環境つくりなどを進める必要がある。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 当院で経験した筋疾患12例の臨床的検討

本稿は、日本プライマリ・ケア学会第20回近畿地方会(2006.11.19.茨木)の発表要旨です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


筋疾患はその頻度が比較的稀であるために、実際の臨床の現場で遭遇する機会は限られている。今回演者は最近の4年半の間に当院で経験した各種の筋疾患12症例について臨床的に検討し、プライマリ・ケアの場における筋疾患診療の問題点を考察した。

 

疾患の内訳は、低カリウム性ミオパチー(1例)、急性筋炎症候群(3例)、多発筋炎(1例)、サルコイドミオパチー(1例)、ステロイドミオパチー の疑い(1例)、筋強直性ジストロフィー(4例)、
診断未確定の筋ジストロフィー(1例)である。

筋力低下や筋痛、筋萎縮などの臨床症状を的確に捉えることが筋疾患を疑うきっかけとなり、血清CKや血清ミオグロビンなどの検査が診断の裏づけとなる。急性・亜急性に経過する筋疾患では個別の治療に反応することが多いので、診断の確定や治療に際しては神経内科などの専門診療科との連携が重要である。慢性に経過する変性性筋疾患は、現状では根本的な治療法がないので、日常生活能力の低下に応じたケアの方策を考える必要があり、医療のみならず介護や福祉面での配慮が必要である。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 当ワーファリン処方とその疾患

本稿は、兵庫県保険医協会・第15回日常診療経験交流会 −医科・歯科・薬科交流企画−「抗凝固剤投与中の患者への対応」での講演要旨です。

つちやま内科クリニック(西宮)土山雅人 

〃貔鬚鳩貔魴狙
◆血栓症:血管内で血液がかたまり血栓を生じ、血流の障害が起きる。心筋梗塞、脳梗塞、深部静脈血栓症、肺梗塞、閉塞性動脈硬化症など。(塞栓症=一旦できた血栓が剥がれて、さらにその先の血管に詰まる)
◆血栓:血小板の凝集に、凝固因子の関与でフィブリン(繊維素)の凝集が加わり強固な血液の塊ができる。
*動脈系・・血管内皮の損傷(動脈硬化)による血小板凝集が主
体 → 抗血小板療法
*静脈系・・血流のうっ滞に伴う凝固因子の活性化によるフィブ
リン凝集が主体 → 抗凝固療法

抗血栓療法(経口剤):抗血小板療法と抗凝固療法
◆抗血小板療法:アスピリンなどの抗血小板剤は、血小板の活性化を抑えて血栓形成を妨げる。
◆抗凝固療法:複数の凝固因子が連続的に活性化して最終的にフ
ィブリンが形成される。一部の凝固因子の産生には、ビタミンKが必要(ビタミンK依存性凝固因子)。ワーファリンはビタ
ミンKの働きを抑えて、血栓形成を妨げる(後述)。

9碍貔鯲屠,療応疾患
◆抗血小板療法:適応は主に動脈系の血栓症
→ 心筋梗塞(冠動脈血栓)、脳梗塞(脳血栓や頚動脈血栓症に
伴う脳塞栓)など
◆抗凝固療法:適応は主に心臓内や静脈系の血栓症
→ 心原性脳塞栓(心房細動や人工弁置換術後などの心臓由来
の脳塞栓)、深部静脈血栓症(下肢の静脈血栓症)とそれに由来する肺塞栓(いわゆるエコノミークラス症候群)など

で捷失鼻特に心原性脳塞栓について
◆脳梗塞
1)ラクナ梗塞・・脳血管、特に穿通枝の硬化性変化
2)アテローム血栓性脳梗塞
  −血栓性機序・・脳血管、特に皮質枝の血栓形成
   −塞栓性機序・・頚動脈等の血栓の剥離による塞栓症
  3)心原性脳塞栓
◆心原性脳塞栓の臨床的特徴
*基礎疾患の存在(心房細動や人工弁置換術後など)
*動脈硬化の少ない比較的若年者に発症
*突発完成の大梗塞(心臓内の大きな血栓が突然剥がれて、脳
血管に詰まる)で、死亡や重篤な後遺症
*他臓器の塞栓症の合併(腎梗塞、腸間膜動脈血栓症・・)

ゥ錙璽侫.螢鷭菠の実際:薬剤と管理
  ◆ワーファリン(一般名:ワルファリンカリウム、1mg錠・5
mg錠 )
*1920〜40年ごろ、北米で腐ったスイートクローバーを食べ
た牛が出血性の奇病により多数死亡したことを契機に発見
され、殺鼠剤として用いられたのちに臨床的に使われるようになった
*ワーファリンは、肝臓でのビタミンKの代謝サイクルを阻
害してビタミンK依存性凝固因子の合成を抑制し、抗凝血
作用を生じる(=循環血液中の血液凝固因子に直接作用するものではない)→ 服用開始から効果の発現あるいは服用中止から効果の消失まで数日かかる
*速やかに吸収され半減期が長い(約40時間)、1日1回投与
*個人により効果が異なり服薬量の調整が必要、最近はPT−
INR(国際標準化プロトロンビン比)の血液検査により効果
判定

Ε錙璽侫.螢鷭菠の実際:診療上の問題点(1)
◆出血性合併症のリスク:皮下出血、歯肉出血、鼻出血などの比較的軽微な出血、あるいは 血尿、痔出血から脳出血、消化管出血などの重篤な出血まで
◆非弁膜症性心房細動では年間12%に脳梗塞を発症
   → ワーファリン投与で発症は4%に減少するが、年間1%に
脳出血発症(特に高齢者、血圧コントロール不良者、PT−INRが3〜4以上などは要注意)

Д錙璽侫.螢鷭菠の実際:診療上の問題点(2)
◆服用の中断と血栓塞栓症のリスク:抜歯などでワーファンリ
  ンを休薬した場合、約1%の患者に重篤な血栓塞栓症(心原性脳梗塞・・)の可能性
◆抜歯や小手術で局所的な止血処置が可能な場合
→ ワーファリンは常用量で継続あるいは減量して凝固能(PT-INR)を治療域下限まで緩和
◆大手術(開腹術など)・緊急手術
→ ワーファリン中止あるいはビタミンK2投与で凝固能を
調節(代替にヘパリンなどの使用・・)

┘錙璽侫.螢鷭菠の実際:日常の注意点
◆他薬剤との相互作用
  *効果を増強:非ステロイド性消炎鎮痛剤など(蛋白結合の競
   合で遊離型ワーファリンが増加)、シメチジンなど(肝臓の代
   謝酵素を阻害)、抗生剤など(腸管細菌叢の変動でビタミンK
   合成の低下)
  *効果を減弱:ビタミンK製剤(骨代謝改善剤)など
◆食べ物の影響
  *納豆(納豆菌が腸内でビタミンK合成)、クロレラやケール青汁ビタミンK含量が多い)は禁止
  *緑黄色野菜の大量摂取はなるべく避ける
◆催奇形性あり、特に妊娠初期は要注意

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 神経難病の在宅診療 −当院の経験から−

本稿は、第3回日本難病医療ネットワーク研究会・ランチョンセミナー (2006.09.29. 大阪)の発表要旨です。

つちやま内科クリニック 土山雅人


当院(つちやま内科クリニック)は2001年10月に兵庫県西宮市に新規開業した無床診療所です。医師は1名(神経内科専門医)で、訪問看護ステーションなどの関連施設はありません。当院で2002年7月から2006年6月の間に3ヶ月以上訪問診療を行なった慢性進行性の難治性神経疾患(神経難病)は合計34例でした。その内訳は、パーキンソン病関連疾患17例、筋萎縮性側索硬化症9例、脊髄小脳変性症4例、多系統萎縮症2例、多発性硬化症 1例、ハンチントン病1例でした。これらの症例の経験を通じて神経難病の在宅診療について考察します。


ヾ擬埖Δ量簑蠹澄Э牲估馼造任録聞埓に運動機能(移動、摂食・嚥下呼吸、意思疎通など)が低下し、その病状の進行に対する患者・家族の受け入れが困難なことが少なくありません。また病状の進行に並行して患者の身体的苦痛や精神的苦悩が高まり、介護者への負担も大きくなります。当院の経験では高齢の夫婦二人暮らしなどの介護力の乏しい家庭がほぼ半数を占めており、経過に伴う介護力不足が懸念されます。


医療者側にとっての問題点:在宅主治医の役割としては、日常的な患の体調管理とともに、病状の進行に伴って必要になる医療処置(胃瘻造設や気管切開など)の導入に関わることがあげられます。前者に関しては専門診療科(泌尿器科や皮膚科など)との診診連携、歯科や薬科との連携、さらに訪問看護ステーションや各種ケアスタッフとの連携が必要であり、後者に関しては病院との連携(病診連携)が重要になります。病院とは緊急時の対応やレスパイト入院の受け入れなどに際しても協力を仰ぐことになります。


在宅ケアにおける問題点:神経難病の在宅ケアには多職種が関わります。神経難病の特殊性を考慮すると、各々の業務に必要な神経難病の医学的知識の習得、神経難病の病状に応じた各専門職としてのケア技術の向上、各職種間の連携と情報の共有化、より多くの専門職種が在宅ケアに介入できる環境づくりなどの方策を整備していかなければなりません。


た牲估馼造虜濛隶緡転紊硫歛蝓Ш8絏魴茲垢戮課題は山積しています。たとえば、在宅医療の専門性の向上、入院医療と在宅医療の特徴をお互いに理解した上での病診連携の推進、地域の医療事情に応じた特色のある取り組み、神経難病医療自体の質的向上(身体的苦痛の緩和、スピリチュアルケアの可能性、ターミナルケアの展開、在宅療養破綻例への対応・・)などがあげられます。いずれもこれまでの「臨床医学」や「神経内科学」の範疇に留まらない事項といえます。今後は在宅の現場での様々な経験を科学的に分析して、それを患者さんにフィードバックできるような「在宅医療学」、「在宅難病学」が発展することを期待しています。



文献

1)土山雅人:神経難病の在宅診療 −当院の経験から−.兵庫県医師会医
学雑誌 47:53−56,2004.
2)土山雅人:在宅神経難病患者の臨床経過 −特に嚥下機能、呼吸機能の低下について−.西宮市医師会医学雑誌 10:36−38,2005.
3)土山雅人:神経難病の在宅診療(第2報) −当院における30例の経験から−. 兵庫県医師会医学雑誌 48:116−120,2006.
4)土山雅人:在宅神経難病患者の臨床経過 −自験例における胃瘻造設、気管切開の検討−.第104回日本内科学会講演会(発表準備中) 2007年4月,大阪.

 
(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 市中医療機関における片頭痛患者の臨床的検討 −関西圏での多施設共同研究結果から−

本稿は、第47回日本神経学会総会(2006.05.13. 東京)での発表要旨です

土山雅人(つちやま内科クリニック)、高瀬 靖(市立豊中病院神経内科)、立岡良久(立岡神経内科)、清水聖保(清水クリニック)、西田博昭(なかつ神経内科クリニック)、山口三千夫(山口クリニック)


【目的】脳神経疾患の専門的診療を行っている市中の医療機関を受診した片頭痛患者の実態を検討した。

【方法】関西各地の頭痛診療に携わっている臨床医から成る「関西頭痛懇話会」の5診療所と1病院において、ICHD‐兇琶卞痛と診断された患者140例(男29例、女111例)にアンケート調査をおこない片頭痛の背景を探るとともにHIT-6(Headache Impact Test-6)を用いて日常生活への影響を調
べた。

【結果】今回初めて片頭痛と診断された者は102例(76.7%、n=133)で、このうち57例は頭痛を主訴に過去に他医を受診していた。普段から肩こりを感じている者は105例(75.0%、n=140)で、このうちの82例は片頭痛発作の際に通常の肩こりとは異なる特有の肩や首筋のこりがあった。HIT‐6の点数が60点以上で片頭痛が日常生活にかなりの影響を与えていると判定された者は123例(89.6%、n=138)であった。

【結論】片頭痛では特有の肩こり感を持つ者が多く、また頭痛は日常生活の大きな障害になっている。しかし適切な診療を受けていない患者は今も少なくない。

 
(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 神経難病の在宅診療 −当院の経験から−

本稿は、日本神経学会第58回近畿地方会(2005.12.17. 大阪)での講演要旨です。

つちやま内科クリニック  土 山 雅 人



【はじめに】当院での訪問診療の経験を通して、在宅の神経難病患者の療養の実際と
その問題点について検討した。


【対象】2002年7月から2005年9月の間に当院から3ヶ月以上の訪問診療を行った神経
難病患者27例(男:女=16:11、訪問開始時年齢=48歳〜88歳)。
疾患は、パーキンソン病・関連疾患:13例、筋萎縮性側索硬化症:6例、脊髄小脳変性
症:4例、多系統萎縮症 :2例、多発性硬化症:1例、ハンチントン病:1例。


【考察】訪問開始時と経過中に加わった医療処置、臨時の入院、転帰などについて検
討した。その結果をもとに、神経難病の在宅診療について、患者側の問題点(症状の
進行とその受容、介護者の負担増加など)、医療側の問題点(在宅主治医の果たすべ
き役割、病診連携のあり方など)、在宅ケア上の問題点(各職種の専門性を高めるこ
とと連携を図ることなど)に分けて考えを述べる。
今後さらに在宅で療養する神経難病患者が増加することが予想されるが、それに対応
するためには疾患の特異性を踏まえた在宅診療の質的向上が必要である。

 
(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 高齢者ケアのピットフォール:
「頭頂骨菲薄化」、「頚椎後縦靭帯骨化症」 −日常診療の中の脳神経内科(その2)−

本稿は、第14回日常診療経験交流会(2005.10.23. 神戸)での講演要旨です。

つちやま内科クリニック  土 山 雅 人



  昨年に引き続いて、日常の診療や看護、介護にあたる皆さんが知っていると役立つ
と思われる比較的珍しい脳神経内科疾患について解説します。


症例1は78歳の女性1)です。歩行中に転倒して後頭部を打撲し、その際の触診で両
側の頭頂部の頭蓋骨の陥凹を蝕知しました。本人は数年前から頭蓋骨が変形している
ことに気がついていたとのことです。頭部単純レントゲンでは両側の頭頂骨に骨透亮
像を認めました。頭部CTでは両側の頭頂部は頭蓋骨外板が主体に菲薄化しており、
「両側性頭頂骨菲薄化(biparietal thinning)」と考えられました。脳実質には特
に異常所見はありませんでした。


本症は欧米では19世紀頃から散発的に報告されている病態です。本邦では坂井ら
(1989)によると頭部単純レントゲン写真2206例中3例(0.14%)に見られる程度の稀な
病態です。本症は一般に高齢者に発見されることが多く、その原因としては加齢に伴
う頭頂部の頭皮や筋肉の血流不全による頭蓋骨の部分的な栄養障害が考えられていま
す。本症自体には病的な意義はありませんが、このような頭蓋骨の菲薄化のある患者
では転倒などによって容易に脳損傷を起こす危険が高いので注意が必要です。


症例2は78歳の男性です。1年ほど前から頭を動かすとふらつきを感じるようにな
りました。耳鼻科に通院していたがめまい症状が続くので来院されました。ADLは
自立レベルでしたが、四肢の腱反射亢進を認めました。頚椎レントゲン、頚椎MR・CT
で上位から中位の頚椎椎体後面に骨化像を認め、「頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)」と
考えました。同部の頚髄は著明に圧迫され変形していました。


本症はアジア系人種に比較的多いとされる疾患です。一般の頚椎レントゲン写真上、
程度の差はあれ3%程度に本症は認められるようです。発症の原因は不明で、ほかの
脊椎の靭帯骨化(黄色靭帯骨化症2)など)を伴うことも少なくないと言われていま
す。脊髄への圧迫が強くなると、痙性麻痺や直腸膀胱障害などの脊髄症状(脊髄症)
がみられるようになり手術が必要になります。骨化の進行が緩徐な場合は神経症状が
なかなか表に出ないこともあります。このような症例でも頚部打撲などの外傷や安易
な頚部への運動負荷 (ストレッチや牽引など)で神経症状が急に悪化することがあ
ります。


高齢者のなかには脳神経系に重篤な影響を与える可能性のある慢性進行性の骨疾患
を持つ者が含まれます。そしてそれらは軽微な外力によって予想外の神経症状を生じ
ることがあります。個々の例を見極めて病態に応じた適切な画像診断による評価や愛
護的な対応が必要です。

文 献
1)土山、他:Biparietal thinning.神経内科 53(Supple.2):138-139,2000.
2)土山、他:上位胸椎に生じた黄色靭帯骨化症.内科 67:98,1991

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 在宅ケアの立場からみた摂食嚥下障害

本稿は、第2回在宅ケア研究会:兵庫県保険医協会北阪神支部 医科・歯科合同研究会
(2005.07.09. 伊丹)での講演要旨です。

つちやま内科クリニック・土 山 雅 人(西宮)

\歐嚥下の基礎知識
)口からのどにかけての構造
)摂食嚥下の5段階
)摂食嚥下の神経機構
)加齢と嚥下障害
)誤嚥のいろいろ
)誤嚥性肺炎の様々
)各種神経疾患と嚥下障害:VF(ビデオ嚥下造影)供覧


∪歐嚥下障害を取り巻く問題点
)「食事」と嚥下
)摂食嚥下障害とその周辺
)摂食嚥下障害のチームアプローチ


在宅患者と摂食嚥下障害
)在宅患者と入院患者
)寝たきり者の背景
)在宅患者と嚥下障害の関わり
)日常の暮らしを通して見えるもの
)在宅ケアにおける各職種の役割


た牲估馼造遼問診療の経験から
)神経難病の進行経過とその対応
)口腔ケアに難渋する症例


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参考文献
1)土山:Parkinsonismの3症例における嚥下障害の検討.西宮医学雑誌 8:17-19, 2003.
2)土山:神経難病の在宅診療 −当院の経験から−.兵庫医学雑誌 47:53-56, 2004.
3)土山:在宅神経難病患者の臨床経過 −特に嚥下機能、呼吸機能の低下について
−.西宮医学雑誌 10:36-38,2005.
(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 地域における難病患者の療養生活支援について

本稿は、平成16年度難病対策連絡調整会議(芦屋,2005.03.23)での発表内容の要旨です

つちやま内科クリニック・土 山 雅 人

(1) 難病,特に神経難病の現状
◆「難 病」(難病対策要綱,昭和47年)
・原因不明、治療法未確立であり、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない疾病
・経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を家族の負担が重く、また精神的にも負担の重い疾病
◆「特定疾患治療研究事業(医療費公費負担)」
全45疾患のうち脳神経系の疾患は病名で三分の一以上を占める
◆兵庫県の実情
・特定疾患医療受給者証交付件数(平成15年)全45疾患合計23,371件
内訳:パーキンソン病関連疾患3,770件,脊髄小脳変性症718件,多発性硬化症397件,筋萎縮性側索硬化症350件など
◆特定疾患以外の神経難病
・筋ジストロフィーや慢性炎症性脱髄性根神経炎(CIDP)など、現行の医療・介護制度が適切に対応しきれない難治性・進行性の神経疾患の存在 → 「制度のはざま」の難病


(2) 当院における神経難病の訪問診療
◆2002年7月から2004年10月の間に3ヶ月以上の訪問診療を行った神経難病患者22例の検討2
・参考文献
1)土山:神経難病の在宅診療 −当院の経験から−
兵庫医学雑誌 47:53-56,2004
2)土山:在宅神経難病患者の臨床経過
−特に嚥下機能、呼吸機能の低下について−
西宮医学雑誌10:(印刷中),2005.


(3) 自験例からみた神経難病の在宅ケアのいくつかの問題点
◆患者に関して
・病状の進行による能力低下(移動,会話,嚥下,排泄,呼吸・・)
・意思疎通(コミュニケーション)方法の確保
◆家族(介護者)に関して
・病状の進行に伴う介護負担(肉体的,精神的,時間的,経済的・・)の増大
・介護内容の高度化(在宅療養環境のハイテク化)への適応
◆主治医・ケアスタッフの対応
・病態に応じた医療的対応(在宅酸素療法,胃瘻造設,気管切開,人工呼吸器・・)
⇒いつ・だれが・どこで・どのように
(情報の共有化,病態の判断,病診連携,診診連携・・)
・ケアにあたる各職種のスキルアップ
⇒一定の医学知識に基づいた各専門職の独自の能力・技術の向上
◆今後の課題
・神経難病の緩和ケア・在宅ターミナルケア
⇒スピリチュアルケア,苦痛・疼痛の管理・・


(4)難病の情報収集と種々の取り組み
◆難病情報センター(厚生労働省・難病研究財団)
http://www.nanbyou.or.jp/
・難病の解説,診断・治療指針,研究班報告,研修会案内,相談窓口紹介,
患者団体一覧など
◆兵庫県難病相談センター(県立尼崎病院内)
http://www.amahosp.amagasaki.hyogo.jp/
・難病患者・家族の療養生活の支援のための相談や情報提供
◆兵庫県神経難病医療ネットワーク(事務局:兵庫県難病相談センター内)
・関係機関の連携による医療ネットワークを通じて,神経難病患者(要綱に定める29疾患)の入院受け入れ先の確保,在宅療養支援体制の充実を図る.医療ネットワークは,拠点病院(県立尼崎病院,国立病院機構兵庫中央病院,公立八鹿病院)・専門協力病院(12箇所)・一般協力病院・診療所より成る
◆兵庫県医師会脳神経外科・神経内科診療所医会
・平成14年発足,会員は兵庫県下の開業の脳神経系専門医50余名(会長:山口クリニック(西宮)・山口三千夫),平成17年秋に神戸で『第2回神経難病フォーラム』を開催予定
◆在宅医療研究会(兵庫県保険医協会西宮芦屋支部)
・第7回研究会:平成17年6月18日(土) 午後3時から(開場2時半),西宮神社会館(西宮えびす神社内)
『認知症の口腔ケアを含む食支援(京都まちづくり口元気塾・金子みどり)』,『神経難病の緩和ケア(救世軍清瀬病院神経内科ホスピス科・加藤修一)』
(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


 神経難病患者の訪問診療 −当院の経験から−

本稿は、第7回日本在宅医学会(2005.02.11-12)での発表内容の要旨です

つちやま内科クリニック  土 山 雅 人

【目的】当院で行っている神経難病の訪問診療の経験を通して、神経難病患者の在宅療養の実態を検討した。
【方法】02年7月から04年9月の間に、3ヶ月間以上の訪問診療を行った神経難病(特定疾患治療研究事業対象疾患)患者21例(47歳〜83歳、男:女=12:9、パーキンソン病関連疾患9例、筋萎縮性側索硬化症5例、脊髄小脳変性症3例、多系統萎縮症2例、多発性硬化症1例、ハンチントン病1例)の診療記録を分析した。
【結果】訪問診療開始時の主な医療処置(重複あり)は、胃瘻3例、経鼻栄養2例、持続導尿3例、気管切開(HOT施行)1例、NIPPV1例。経過中に新たに加わった医療処置は、胃瘻造設3例、HOT導入2例。一時的な入院加療を要した者は5例・計7回(肺炎・呼吸不全:3例で計5回、腸炎・脱水症:1例で1回、大腿頚部骨折:1例で1回)。現在入院加療中が1例(肺炎、呼吸不全で入院後に気管切開施行)。死亡は4例(いずれも入院・入所後に肺炎・呼吸不全)。生活環境では、同居者が配偶者あるいは子供一人のみが13例(介護者の年齢が70歳以上が7例、うち1例では介護者の不調のため患者が施設入所となっ \た)。
【考察・結論】神経変性疾患を主体とする神経難病患者では、進行性に運動機能の低下を生じ、とりわけ嚥下機能や呼吸機能の低下が在宅療養で大きな問題となる。また最近の核家族化や人口の高齢化により介護力が乏しい家庭が少なくないので、介護者への配慮も重要である。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


  「猪首」と「なで肩」 −日常診療の中の脳神経内科−

本稿は、第13回兵庫県保険医協会・日常診療経験交流会(2004.10.17)での発表内容
の要旨です。

つちやま内科クリニック  土 山 雅 人

 神経内科が専門として診る代表的な疾患には、脳卒中やパーキンソン病、各種神経難病などがあります。しかし実際の神経内科外来ではこのような脳神経疾患以外にも、頭痛、しびれ、めまい・ふらつきなどの極く一般的な症状の患者さんが数多く来られます。演者の市中病院神経内科での経験1)では、1年間の初診患者(806例)のうち頭痛を主訴としたものが21.6%、しびれが18.6%、めまい・ふらつきが12.0%でした。このような訴えを持つ患者さんは各科の日常診療でも少なくないと思われますが、そのなかには思わぬ病態が隠れていることがあります。今回は頚椎の異常に注目して、「猪首」あるいは「なで肩」でみられる一般にはあまり知られていない病態について解説します。


症例1は、頭重と手指のしびれ感を主訴に来院した48歳のKlippel-Feil症候群の女性です 2)。過去に先天性の左腎欠損を指摘されています。外観的には著明な短頚があり猪首を呈し、後頚部の髪の生え際(hair line)が低位で、頚椎の運動制限を認めました。神経学的には四肢の腱反射亢進と病的反射陽性を認めましたが、明らかな筋力低下や他覚的な感覚異常はありませんでした。頚椎X線や頚椎MRIでは、第2・3頚椎間と第6頚椎・第1胸椎間の骨癒合があり、環椎後頭骨癒合、環椎軸椎亜脱臼(歯突起による脳幹頚髄移行部の圧迫・変形を伴う)、歯状突起の頭蓋底陥入、脊柱側彎などの多彩な異常所見を認めました。Klippel-Feil症候群は、頚椎を中心とした脊椎 の骨癒合を呈する先天奇形です。本症では骨格系のほかにも心血管系や腎尿路系などにもしばしば奇形を伴うことが知られています。本症では脊椎の骨奇形の状況によっては、軽微な外傷でも容易に頚髄損傷を起こす可能性があります。特に本例のようにすでに歯突起による脳幹頚髄移行部の圧迫・変形を伴っているケースでは、頚部のストレッチをする際などには要注意といえます。

症例2は、後頚部や背部の疼痛を主訴に来院した34歳のDroopy shoulder syndrome(いわゆる、なで肩症候群)2,3)の女性です。外観的には長頚でなで肩を呈し、正面からから見ると鎖骨が水平位で鎖骨上窩が浅いという特徴を認めました。神経学的には特に異常所見はありませんでした。頚椎X線では、脊椎骨自体に変形はありませんが、側面像で第3胸椎椎体まで観察できました。本症は特徴的な骨格に伴って腕神経叢が下方へ牽引されることにより肩部や上肢に疼痛やしびれ感が生じるもので、画像診断的な基準としては頚椎X線側面像で第2胸椎椎体まで観察できることが挙げられています。臨床的には胸郭出口症候群との鑑別が問題になりますが、一般に本症では疼痛やしびれ感などの症状は上肢の下垂により増悪し挙上により軽減するところが、両者の鑑別のポイントになります。
頭痛・頭重や頚部の疼痛といった症状を訴える人の中には、今回取り上げたふたつの疾患のように外見をよく観察することによって診断の手がかりが得られる場合があります。以上、日常診療のなかで知っておくと役立つと思われる脳神経疾患を紹介しました。

文 献
1)土山、他:市中病院神経内科における初診患者の分析.神経内科 45:374‐376,1996.
2)土山、他:頭蓋頚椎移行部の異常を伴ったKlippel-Feil症候群.神経内科 43:386-387,1995.
3)土山、他:「なで肩」を伴う症例の検討.日本医事新報 3474:29-31,1990.
4)土山、他:Droopy shoulder syndrome.神経内科 38:420-421,1993.

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


  パーキンソン病

2004年8月18日 神戸新聞 カルテ Q&A より

【問い】

 3年ほど前から左手と顔のふるえが気になります。字を書くときは右手がふるえることもあり、気分がすぐれません。何科にかかればいいですか?

【答え】

 ふるえが現れる病気にはいくつかありますが、中年以降になって、じっとしている時に、片方の手や脚が小刻みに規則的にふるえる場合、まずはパーキンソン病を疑います。

 ふるえのほか全身の動作が鈍くなる、手足や首の筋肉が硬くなる、身体のバランスが悪くなり転びやすくなるなどの症状がみられます。顔の表情が乏しくなったり、話し方が単調になったり、書いた字が徐々に小さくなることもあります。

 日本では十万人のうち約百人いると考えられ、珍しい病気ではありません。高齢になるほど、発症者が増えます。社会生活が難しい中等度以上は、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。

 脳の中で、神経の指令を伝える物質であるドーパミンが少なくなるために発症します。ドーパミンは脳幹部にある黒質でつくられており、その細胞が徐々に消失するために起こります。

 血液検査や頭のCTでは特別な異常は見つかりません。症状や経過を良く聞いて診断します。脳卒中の後遺症や、パーキンソン病と関係のない薬の副作用でも、まれに似た症状が出る場合があるので、これらの区別も必要です。

 治療はドーパミンの働きを補助する薬を使います。問いの女性は病名がはっきりとしていないので、一度、神経内科で診てもらうといいでしょう。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


  二次性パーキンソン症候群のあれこれ

本稿は、第1回西宮脳神経セミナー(2004.5.27)での講演内容の要旨です。

機ゥ僉璽ンソン病と二次性パーキンソン症候群

  • パーキンソン病は、安静時振戦、筋固縮、無動、姿勢反射障害を主症状(四大症状)とする神経変性疾患で、初発症状としては、振戦、歩行障害、動作緩慢などが多い。パーキンソン症状を呈する疾患はパーキンソン病以外にも種々のものが挙げられており、これらを鑑別することは臨床上重要な事項である。
  • 三重大学・葛原(2000)によると、パーキンソン症状を主訴として来院した患者の最終的な診断名は、パーキンソン病59%,脳血管性パーキンソン症候群17%,薬剤性パーキンソン症候群13%,その他11%だった。
  • パーキンソン病の診断は詳細な病歴の聴取と神経学的診察による臨床的なアプローチによって行われる。画像診断などの補助検査は二次性パーキンソン症候群の除外のために必要だが、これも臨床的にあらかじめ鑑別すべき疾患を考えた上で適切な検査法を選択することが望まれる。

供テ鷦\パーキンソン症候群の実際 −自験例4例の紹介−

  • 症例1:カルシウム拮抗薬服用中にパーキンソン症状を呈した症例。本例では塩酸ベニジピンの長期服用中にパーキンソン症状を呈したが、中止後1ヶ月で症状は著明に改善した。カルシウム拮抗薬による薬剤性パーキンソン症候群は、塩酸フルナリジンやシンナリジンが発売中止になってからは稀になり、今では散発的に報告がある程度である。現在では消化器領域でよく使われるベンザミド系薬物(スルピリド、メトクロプラミドなど)による二次性パーキンソン症候群の症例が増えている。
  • 症例2:脳原発悪性リンパ腫によるパーキンソン症候群。本例は両側の基底核部の浸潤性腫瘍の症例。このような症例も稀ではあるが、週から月単位でパーキンソン症状が進行する場合には、(前述の薬剤性の場合なども含めて)二次性パーキンソン症候群の場合が多いので注意が必要である。
  • 症例3:線条体黒質変性症(SND)に伴うパーキンソン症候群。本症(SND)に限らず、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、脊髄小脳変性症などの各種の神経変性疾患でパーキンソン症状がみられる。発症当初はいずれもパーキンソン病との鑑別が困難だが、抗パーキンソン病薬の反応性や各々の特徴的な神経学的所見などが診断のヒントになる場合がある。また、最近では高解像能のMRIあるいはSPECT、遺伝子診断などによっても鑑別ができるようになってきた。パーキンソン病の特定疾患の申請の際に、これらの疾患との除外についての記載を求められるので、それぞれの臨床像のアウトラインを知っておく必要があろう。
  • 症例4:正常圧水頭症(NPH)に伴うパーキンソン症候群。典型例ではNPH自体の診断はCTでも十分可能である。自験例では髄液短絡(シャント)手術により、パーキンソン症状や痴呆症状が明らかに改善した。シャント手術がどれくらい有効であるかの事前の予測はなかなか困難だが、症例によっては確かに効果を認める例がある。最近では、腰椎腹腔シャント術のように低侵襲の方法によるシャント手術も行われている。
  • この他にもパーキンソン病の診断をくだす際には、鑑別すべき神経疾患は多々ある。また、甲状腺機能低下症やうつ病など神経疾患以外にも除外すべき疾患もある。
(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)


  在宅医療ことはじめ −当院の経験から−

本稿は、高砂市医師会平成16年度第1回生涯教育研修会(2004.4.8.・高砂)での講演要旨です。

.在宅医療の現状

往診と訪問診療
・往診=患者の求めに応じて、随時、短期的に行われる患者宅での診療行為急性期を過ぎる、あるいは入院になると終了
・訪問診療=医療計画に基づいて、定期的に行われる患者宅での診療行為関連の多職種との連携による継続的なチーム医療(ケア)が基本

在宅医療患者 (平成14年患者調査、単位=人)
・ある特定の調査日に全国で診療を受けた患者の実数
・在宅患者総数(訪問診療+往診):72,000

→診療所=訪問診療25,000+往診18,000
病院=訪問診療6,000+往診4000
歯科=7,000
医師・歯科医師以外=12,000

・在宅患者のうち、63,000(在宅患者の87.7%)が65歳以上
→65歳以上の外来患者(病院+診療所)2,713,000の2.3%が在宅医療を受けている

寝たきり者の主な原因 (平成13年国民生活基礎調査) n=36,573
・脳血管疾患(脳卒中など)  36.6%
・痴呆          12.2%
・骨折・転         12.2%
・高齢による衰弱      11.7%
・関節疾患(リウマチ等)    6.8%
・パーキンソン病       5.5%  (上位6位の累計=85%)    
・脊髄損傷          3.1%  
・呼吸器疾患(肺気腫・肺炎等) 2.2%
・糖尿病            2.1%
・心臓病          2.0%
・癌(悪性新生物)      0.9%
・視覚・聴覚障害   0.8%
・その他・不明・不詳   4.0%

訪問診療患者の実際
(訪問診療主体のFクリニック:東京・足立区のHP,01年資料から)

総患者数=495例

・脳卒中後遺症 150例
・脳神経疾患(パーキンソン病、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症・・) 39例
・痴呆症など(アルツハイマー型痴呆・・) 47例
・呼吸器疾患(肺気腫、慢性呼吸不全・・) 20例
・心疾患(心不全、狭心症・・) 17例
・その他の内科系疾患(高血圧症、糖尿病、肝硬変、腎不全、悪性腫瘍・・) 43例
・整形外科的疾患(脊椎症、膝関節症、骨折後・・) 179例

.当院の訪問診療

「神経難病の在宅診療 −当院の経験から−」:第8回兵庫県リハビリテーション医会学術集会(03年11月,神戸)での演者(土山)の発表要旨

・当院は01年10月に西宮市に新規開業した無床診療所(医師1名:日本神経学会専門医)。
・02年7月から訪問診療を開始。自前での居宅介護サービス施設なし。近隣の病院と24時間連携体制(連携加算供法
・02年7月〜03年9月の間に訪問診療を行った実患者数は20例、そのうち14例が神経難病患者(47歳〜85歳、70歳代以上7例)。
・神経難病の内訳は、パーキンソン病(PD)5例、脊髄小脳変性症(SCD)3例、筋萎縮性側索硬化症(ALS)3例、多発性硬化 症(MS)1例、進行性核上性麻痺(PSP)1例、シャイ・ドレーガー症候群(SDS)1例。
・訪問診療開始時、経管栄養3例(経鼻胃管2例、胃瘻1例)、持続導尿2例、気管切開1例(在宅酸素)、人工肛門1例(大腸癌 術後)。
・観察期間中の死亡例1例(ALS:肺炎・呼吸不全)、ほかに1例が誤嚥性肺炎で気管切開を行い入院中、1例が介護力低下 (主たる介護者の高齢化・軽度痴呆)で入所中。また、経過中に嚥下障害のため新らたに4例に胃瘻(PEG)造設がなされた。
・神経難病では経過とともに運動機能が低下するが、とりわけ嚥下機能の障害は生命
予後に直接関与する重要な要因であった。在宅介護上の問題として、介護力が乏しいケースが多く(介護者が配偶者のみ7例)、今後の長期間の在宅療養による介護者への負担増大が懸念された。

.在宅医療の様々なかたち

ヾ擬圓陵諭后Ш濛雋擬圓慮造蕕譴辛駄召里覆にも多様な病像

A)慢性の経過・加齢による変化が主体=脳卒中後遺症などの慢性疾患のように加齢の影響を受けて「年(year)」単位で症状が進行する患者(Y群)

B)亜急性に進行=進行期の神経変性疾患のように「月(month)」単位で症状が進行し、ADLが低下する患者(M群)

C)在宅ターミナル=ターミナルケアの対象となるような末期の悪性疾患で「週(week)」単位で症状が進行し、数週から数ヶ月以内に死を迎える患者(W群)

D)高度ケア患者=病状は重篤だが、病態は安定(呼吸麻痺に対する人工呼吸器、IVH、透析・・)

⊃芭貼蠅陵諭后Э芭貼蟲’修僚伝備化⇔軽装備化、医療介護の複合化⇔ネットワーク化、診診連携・グループ医療・・

A)訪問専門診療所=医療環境のハイテク化(TV電話、遠隔モニタリングシステム・・)、IT化(モバイル電子カルテシステム・・)

B)専門科型訪問診療=特殊な疾患に対する専門診療科(神経難病、膠原病・・)特定の病態に対する専門診療科(尿路管理=泌尿器
科、褥創=皮膚科・・)

C)近隣型訪問診療=近隣の通院困難患者に対する訪問診療            

D)病院サテライト型=病院外来の切り離しに伴う在宅医療の推進

C楼茲陵諭

A)医師会主導型=地元医師会による在宅主治医紹介システム

B)基幹病院主導型=病診連携システムによる逆紹介の推進

C)医療介護福祉連携型=地域の医療関係者と介護関係者が連携をとれる場をつくり、在宅ケアの総合的なサービスを提供する

.在宅におけるチーム医療

入院医療(キュア)と在宅医療(ケア)
・入院:トップ(院長=医師)はひとりで、良くも悪くも医師(医療)主導
院内に各種専門職が居り、連絡は取りやすい
各職種ごとのチームとしての能力
・在宅:各職種(医療、看護、介護、福祉)の混成で、誰が主導権?
所属がバラバラでは、一堂に会することが困難
各職種の個人の能力・技能が重要

他職種、多職種との連携

・チームの構成要素:外部との連絡調整役(家族や関係機関との折衝窓口)チーム内の連絡調整役(業務連絡全般)チームのまとめ役(医療と介護の接点)
⇒主に訪問Ns、ケアマネ、主治医などがこれらの役目を担うが、個々のケースの条件(医療依存度、必要な介護内容・・)やチームを構成する者の実力などによって柔軟に対応する必要がある

訪問看護ステーションの活躍 (HP:在宅医療の実践Q&A,01年資料より)

・24時間対応の浦和市のM訪問看護ステーション(受け持ち患者数は常時100〜120症例)の00年9月〜01年8月の実績

・緊急電話連絡(緊急コール)=総数224件(平均4.6件/週)
このうち、Nsの電話対応で解決=153件(68.3%)
主治医に連絡=71件(31.7%) → 主治医出動:12件(11件が在宅看取り)
病院へ依頼:13件

・緊急コールの時間帯(0時から2時間区切り):最多は18時〜20時=18.9%、次いで20時〜22時=16.0% → 18時〜22時の間
に34.9%深夜帯の0時〜6時=3.8%

サービス担当者会議(ケアカンファレンス)とは −介護支援専門員標準テキストより−

・要介護者等又はその家族を主体として開催され、会議の運営の中心となる介護支援専門員及び保健・医療・福祉サービスを当該要介護者に提供するサービス担当者等から構成される。

・具体的なサービス担当者会議の内容は、課題分析によって明らかになった生活ニーズの判定や介護サービス計画の作成を、介護支援専門員が中心となって会議で決めていくものである。

・これにはサービス担当者に加えて、要介護者やその家族が参加し、意見を述べる事が望ましい。しかしながら、要介護者や家族が参加できなかったり、十分意見を言えない場合もある。こうした際には介護支援専門員は要介護者等や家族の意見を代弁し、サービス担当者会議を進めてい
くことになる。

・要介護者等にサービスを提供しているサービス担当者が一堂に会し、顔を合わすことでサービス
提供についてのチームワークも深める事が出来る。」

.おわりにかえて

・西宮市と高砂市 (医師会HPより)

左から 面積,人口,医師会員,診療所,病院,老健・その他,A会員・B会員,無 床・有 床     

西宮市:100平方Km 45万人 404名・216名 346軒・30軒 22軒 6軒
高砂市: 35平方Km 10万人  71名・ 32名  56軒・ 9軒 1軒 3軒

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)

  『摂食嚥下障害』を取り巻く問題点 −在宅患者さんを中心に−

本稿は、阪神南摂食嚥下障害対策ネットワーク構築フォーラム (2004.2.21.西宮)での講演要旨です。

1.ビデオ嚥下造影(VF)の供覧

1)正常対照例
2)多発性脳梗塞による「仮性(偽性)球麻痺型」嚥下障害
3)延髄梗塞による「球麻痺型」嚥下障害
★問題点(1):VFで摂食嚥下障害のすべてが分かるか?

2.摂食嚥下の5段階

・先行期(認知期)〜準備期は、大脳皮質によりコントロールされる随意運動(自分で運動を調節できる)の時期。
@食事をするには、本人の食事に対する認識や意欲が必要。
@失語・失行・失認といった高次脳機能障害でうまく食事ができないこともある。
@食事の際の姿勢や頚部・肩部の筋の緊張状態、腕・手の動きにも注意。
@咀嚼には、歯牙の状態、口・舌の動き、口腔内の感覚・味覚、唾液分泌などが重要。
@口腔内の状態は比較的容易に観察できる。日々の口腔内のケアは不可欠。
@口・舌も使っていないと廃用性の機能低下が起こる。加齢によっても機能は落ちる。
・口腔期〜咽頭期〜食道期は、延髄の嚥下中枢によりコントロールされる反射運動(自分で動きを調節できない)の時期。
@嚥下反射の中枢(延髄の嚥下中枢)の損傷では重症の嚥下障害がきたすことが多い。
@嚥下反射自体に対するリハビリ訓練は困難。
@嚥下の瞬間は外部から観察できないので評価が難しい(=VFが有用)。
@誤嚥してもむせないことがあるので、飲み込んでいるように思えても肺に入っていることがある(飲み込んでいるように見える≠誤嚥の心配はない)。
★問題点(2):食事とは食物を飲み込むだけのことか?

3.在宅における摂食嚥下障害

1)在宅医療と入院医療
在宅医療  ⇔ 入院医療      
(終末期の在宅医療を除く)             

・主たる目的:快適な日常生活  ⇔ 病気の治療(侵襲的な行為を含む)
・スタッフの役割 :日常生活の中から個人の問題点 ⇔ 円滑な医療行為の遂行と効果のを見つけ出す(異常の早期発見) 判定
・スタッフの関与 :介護>看護>医療 ⇔ 医療>看護>介護  

2)在宅患者さんの疾患と経過の特徴
・演者(土山)は、在宅患者さんを原疾患の進行に応じて次の三つのグループに大きく分けて考えている(もちろん同じ疾患名でも個々のケースによって状態は異なる、また急性の病態が加わった場合などで状態は変わりうる)。

儀押А版“の単位で変化する群=脳卒中後遺症、関節リウマチ、加齢による変化・・・
⇒観察のポイントは日常の生活が通常通り行われているかの確認。
況押А鳩遏箸涼碓未琶儔修垢觀押畤牲佇兩疾患(ALS、脊髄小脳変性症など)・・・
⇒予想される変化の徴候に注意して対応(嚥下障害が予後に影響することが多い)。
祁押А判機箸涼碓未琶儔修垢觀押甍性疾患末期(終末期医療)・・・
⇒医療の関与の度合いが高い。

3)在宅患者さんと摂食嚥下障害
・現状の摂食嚥下機能の評価。
・摂食嚥下障害の早期発見。
⇒摂食嚥下障害の問診票などの内容を参考に、日々の業務の間にも患者さんをよく観察する。
・「嚥下障害の悪循環」に注意。嚥下障害 ? 脱水・栄養状態低下 ? 全身状態悪化 ? 嚥下障害増悪 ? ・・・
★問題点(3):毎日食事ができている人には摂食嚥下の問題はないか?

4.摂食嚥下障害に対する様々なアプローチ

1)摂食嚥下能力の向上
⇒姿勢保持、過剰な筋緊張の是正、手指の巧緻性改善、環境の整備、嚥下訓練・・・
2)口腔ケアの実施
⇒口腔内の衛生管理、味覚や口腔内の感覚の重要性、歯牙や咬合の観察・・・
3)食事介助の実際
⇒介助の技術、食形態の評価、日々の状態の観察・・・
4)食事形態の改良
⇒嚥下食・食材の工夫、水分補給の工夫・・・
5)栄養評価の必要性
⇒食事内容の評価、栄養状態の評価・・・
6)摂食嚥下障害とくすり
⇒嚥下障害をきたす薬剤、服薬の工夫、嚥下障害に対する薬物療法の可能性・・・
7)マネージメントとリスク管理
⇒摂食嚥下(食事をすること)は生活に密着した日常の行動であるとともに、生命維持に直接関係する重要な事柄で、医療・看護・介護にまたがる広汎な内容を持つ。
★問題点(4):摂食嚥下障害に対するチームアプローチとは?

5.まとめにかえて
★問題点(5):摂食嚥下障害に対する“ドリームチーム“を目指すには??

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)

  神経難病と嚥下障害

本稿は、兵庫県保険医協会・西宮芦屋支部 第3回在宅医療研究会「嚥下障害」(2004.1.31. 西宮)での講演要旨です。

1.神経難病とは

◆厚生労働省は難病対策として以下のような疾病を難病(特定疾患)として取り上げている。
・原因不明で治療法が未確立であり、後遺症を残すおそれが少なくないもの
・経過が慢性で、経済的のみならず介護にかかわる家庭の人的負担や精神的負担の大 きいもの

◆最近(平成15年)では、調査研究対象として121疾患が取り上げられ、そのうち45疾患が医療費公費負担の対象になっている。これらのうちの多くは脳神経系に関係する疾患(=いわゆる神経難病)である。
ただし、脳神経系の難治性疾患がすべて神経難病と認定されているわけではない(例えば、筋ジストロフィーなど)。

◆今回は神経難病の中で代表的な変性疾患である、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症の3疾患を取り上げる。この3疾患の兵庫県における特定疾患医療受給者証の交付件数(平成14年度)は、パーキンソン病が3542件、脊髄小脳変性症が998件、筋萎縮性側索硬化症が330件。

◆変性疾患(神経変性疾患)=神経難病に見られる代表的な病的変化のひとつ。ある特定の神経細胞のみが徐々に消失・脱落し、それに連なる神経系が系統的に障害される原因不明の疾患。
・パーキンソン病 ?中脳にある黒質のドーパミン細胞の変性による線条体・黒質路の障害
・脊髄小脳変性症?小脳を中心とした身体の運動バランスの制御系の障害
・筋萎縮性側索硬化症?脳から脳幹・脊髄(上位運動ニューロン)及び脳幹・脊髄から筋肉(下位運動ニューロン)に至るまでの運動神経系の障害

◆参考HP
・難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/
・神経筋難病情報サービス http://www.saigata-nh.go.jp/nanbyo/index.htm#start

2.在宅における神経難病の実際

◆第8回兵庫県リハビリテーション医会学術集会(03.11,神戸)に下記の演題を発表した。

『神経難病患者の在宅診療 −当院の経験から−』  つちやま内科クリニック・土山雅人

・当院は01年10月に新規開院した無床診療所(医師1名=日本神経学会専門医、24時間連携加算)である。当院では02年7月から訪問診療を開始した。今回、03年9月までの15ヶ月間に経験した在宅神経難病患者について検討した。
・この間に訪問診療を行った実患者数は20例、そのうち14例が神経難病患者(47歳〜85歳、70歳代以上7例)であった。疾患の内訳は、パーキンソン病(PD)5例、脊髄小脳変性症(SCD)3例、筋萎縮性側索硬化症(ALS)3例、多発性硬化症(MS)1例、進行性核上性麻痺(PSP)1例、シャイ・ドレーガー症候群(SDS)1例。訪問診療開始時、経管栄養3例(経鼻胃管2例、胃瘻:PEG1例)、持続導尿2例、気管切開1例、人工肛門1例。観察期間中の死亡例は1例(ALS:肺炎・呼吸不全)、ほかに1例が誤嚥性肺炎で気管切開を行い入院中、1例が介護力低下(主たる介護者の高齢化・軽度痴呆)で入所
中である。また、嚥下障害のため新たに4例にPEG造設がなされた。
・神経難病では経過とともに運動機能が低下するが、とりわけ嚥下機能の障害は生命予後に直接関与する重要な要因であった。在宅介護上の問題としては介護力の乏しいケースが多く(介護者が配偶者のみ7例)、今後の長期間の在宅療養による介護者への負担の増大が懸念された。神経難病患者を支える取り組みとして、兵庫県による「神経難病医療ネットワーク事業」、「摂食嚥下障害対策ネットワーク事業」、地域の各職種が参加する「在宅医療研究会」についても紹介した。

3.パーキンソン病(PD)と嚥下障害

◆疾患の解説:変性疾患のなかでアルツハイマー病に次いで2番目に多い。人口10万人あたり100人ほどの患者数。中脳にある黒質のドパミン神経細胞の変性による消失
・脱落のため、脳内のドパミンが欠乏するために起こる。安静時振戦(震え)、筋固縮、無動、姿勢保持反射の障害などの運動障害を呈し、経過とともに自律神経症状、高次脳機能障害、精神症状などが生じる。脳内で欠乏するドパミンを補うためのレボドパの補充療法が有効である。

◆PDの嚥下障害:一般に病気の進行とともに増加する。軽症例でも嚥下障害を伴う場合もあり、時には四肢の症状よりも強いことがある。舌や口腔咽頭の筋の振戦や固縮
・無動などにより、食事に時間がかかる・咀嚼しにくい・飲み込みにくいなどの準備期から口腔期の障害を呈することが多い。病状の進行とともに認知障害・姿勢異常の影響から嚥下反射の遅延・食道入口部の開大不全まで、摂食嚥下の各期にわたる障害が見られる。むせのない誤嚥(不顕性誤嚥)も少なくない。

4.脊髄小脳変性症(SCD)と嚥下障害

◆疾患の解説:人口10万人あたり数人程度の患者数。SCDは遺伝子解析や病理形態の違いから何種類ものタイプに分けられる。小脳や脳幹の神経細胞の脱落・消失により、身体の筋肉を協調して動かす機能が障害(運動失調)され、動作が下手になったり身体のバランスが悪くなる。

◆SCDの嚥下障害:舌や口腔・咽頭の筋の協調的な動きが悪くなり、準備期から咽頭期の食塊の移送に障害をきたす。脳幹部の変化に伴って球麻痺、仮性球麻痺などが加わり、より誤嚥の危険が増す。

5.筋萎縮性側索硬化症(ALS)と嚥下障害

◆疾患の解説:人口10万人当たりの患者数。運動神経系の系統的な変性により、全身の筋萎縮・筋力低下が生じる。一般に発症から3年前後で呼吸不全を起こし、人工呼吸器が必要な状態になる。知的障害や感覚・知覚の異常は通常みられない。

◆ALSの嚥下障害:舌、口腔・咽頭の諸筋の筋萎縮・筋力低下により準備期・口腔期
・咽頭期を中心に障害(球麻痺)が生じる。呼吸器筋の障害による呼吸機能の低下(換気障害)も並行して進行することが多く、ALSの長期療養に際しては栄養管理と呼吸管理の両者が重要である。%FVC(努力性肺活量が患者の予測値の何%か)が、50%を下回ると誤嚥した場合の喀出力が弱くなり、誤嚥性肺炎の危険が高くなる。この場合、PEG造設の際の合併症の危険も高まる(→あらかじめ気管切開をして呼吸道の確保をするなどの配慮が必要)。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)

  脳卒中と嚥下障害

本稿は、兵庫県保険医協会・西宮芦屋支部第2回在宅医療研究会『嚥下障害』(2003.8.30 西宮)での講演要旨です。

1.脳卒中について

◆最近の動向

 *最近の医学の進歩により脳卒中による死亡は減少しているが、人口の高齢化により脳卒中患者自体の数は減っていない(特に脳梗塞の増加、脳出血は減少)。脳卒中を発症するとほとんどはなんらかの後遺症を伴う。従って、継続的な医療・介護を必要とする脳卒中患者は今後もさらに増加することが見込まれる。ちなみに、1996年の患者調査では日本の脳卒中患者数は173万人、このうち入院患者数は21万6000人と推定されている。

◆脳卒中(脳血管障害)とは

 *脳梗塞=脳血管が詰まる(閉塞)ために、脳組織が死んでしまう(壊死)もの
  ・アテローム血栓症(脳血栓):頚動脈や脳内の比較的太い動脈(皮質枝:直径数mm程度)の動脈硬化が進行して粥腫(じゅくしゅ)を作って血栓を生じるもの。粥腫のある場所に血栓ができて血管を閉塞する場合(血栓性機序)とできた血栓が剥がれて粥腫よりも末梢側で詰まる場合(塞栓性機序)がある。一般に脳の広い範囲に梗塞をきたしやすい。
  ・ラクナ梗塞:脳の深部の細い動脈(穿通枝:直径数百μ程度)の閉塞によって小さな(数cm以下)の梗塞をきたすもの(‘ラクナ‘とは小さな穴と言う意味)。ラクナ梗塞は脳の奥(基底核部)に多発することが多い。
  ・心原性塞栓症(脳塞栓):心臓の病気(不整脈、弁の硬化・・)などによって心臓内にできた血栓が剥がれて脳内の血管に詰まったもの。心臓内の血栓は大きく、脳内の主要な血管を突然閉塞するために、症状は重篤になりやすい。

 *脳出血(脳内出血)=脳実質内の細い血管が裂けて脳の内部に出血(血腫を形成)したもの。血腫により当該部位の神経細胞は損傷され、周囲の脳組織には圧迫による影響がおよぶ。

 *クモ膜下出血=頭蓋内の主要な血管に生じた動脈瘤が破裂したり(クモ膜下出血全体の約80%)、血管奇形(脳動静脈奇形)から出血した(全体の20%)もの。出血は脳表面とそれを被うクモ膜と呼ばれる薄い膜組織の隙間に広がる。突然の激しい頭痛で発症。初回の発作で約40%が死亡、重篤な後遺症が残る人が30%、社会復帰できる人は30%足らず。

◆脳卒中の臨床

 *症状の特徴
  ・脳は各部位によって機能が異なる(例えば、前頭葉はものを考える、後頭葉は視覚をつかさどる、運動神経の通り道(錐体路)と感覚神経の通り道(感覚路)は別々のところにある・・)。したがって脳卒中が、どこに、どの程度(範囲)生じたかによって、個々の臨床症状は異なる(=脳卒中で比較的起こりやすい症状はあっても、すべてに共通する症状は無い)。小さな病巣でも運動神経を直撃すると重篤な麻痺が生じる、大きな病巣でも普段あまり使われていない部位(silent area)に起こるとあまり目立った症状は出ない。
  ・ラクナ梗塞のような小さな梗塞は、もともとあまり症状を出さない(無症候性脳梗塞)か症状をきたしても比較的改善しやすい。しかし何回も小梗塞を繰り返していると脳の全般的な機能が低下して、しだいに痴呆症状(血管性痴呆)やパーキンソン症状(血管性パーキンソン症候群)を呈するようになる・・・『塵も積もれば山となる』。

◆脳卒中における嚥下障害

 *一般に脳卒中急性期では40〜60%に嚥下障害がみられる。1〜2週間のうちにしだいに嚥下機能は改善しはじめ、発症後2週間を過ぎても嚥下が不能の症例は3%程度。大部分の脳卒中患者では数ヵ月後には経口摂取が可能になる。

 *脳卒中後に嚥下障害が遷延するケースでは、呼吸器感染症が多いこと、低栄養状態にあること、死亡率が高いこと、入院期間が長いことが確認されている。

 *重い嚥下障害をおこす脳卒中:大脳深部の両側性・多発性病変(=「偽性(仮性)球麻痺型」嚥下障害)、延髄の嚥下中枢の病変(=「球麻痺型」嚥下障害)。

 *片側性の大脳病変では、重度の嚥下障害をきたすことは比較的少ない(嚥下障害があっても一過性に経過して、改善することが多い)。なかには、不必要な経鼻経管栄養の長期化や気管切開の影響で、長期にわたって経口摂取が妨げられている場合もある。

2.摂食・嚥下の神経機構

◆摂食・嚥下の神経機構の概略

 *ものを食べる際には、覚醒した状態で食物を認識することや食事に対する意欲を持っていることが必要である。意識障害や知的障害がある場合には、食事と言う行為自体が理解できないこともある(=認知期の障害)。

 *失語・失行・失認などの高次脳機能障害があると、摂食・嚥下に関する合目的な行動ができないことがある(反射的・自動的な口腔・咽頭の運動はできるが、随意的・意図的な動作ができない・・口顔面失行・嚥下失行など)。

 *口腔内で咀嚼する準備期から、嚥下可能になった食塊を咽頭腔(嚥下反射誘発部位)まで運び込む咽頭期までは随意的な過程。顎、舌、頬などの多数の筋肉が協調して運動する必要がある。歯の安定性や唾液分泌、口腔粘膜の知覚、味覚などの因子も、この段階の重要な要素である。 *食塊が咽頭を通過する咽頭期は反射運動による画一的な運動である(=嚥下反射)。咽喉頭粘膜からの知覚刺激は、舌咽神経や上喉頭神経を介して脳幹(延髄部)の孤束核に両側性に伝えられ、中枢性パターン形成器(central pattern generator:CPG)を活性化させる。このCPGの活性化は入力される知覚刺激が一定量以上に達するとall or noneに発現するが、その発現の閾値に関しては大脳皮質からの閾値調節機構であらかじめ調整を受けている。一旦CPGが活性化すると、疑核の嚥下に関わる筋群の運動ニューロンが順次駆動して、舌咽神経、迷走神経、舌下神経を介して一連の咽頭期嚥下運動が実行される。

 *咽頭期の嚥下運動の実際は以下のとおり。舌骨上筋群の収縮により舌骨が挙上し、舌根部が後下方に引かれ、喉頭蓋が喉頭をふさぎながら倒れこむ。食塊は倒れこんだ喉頭蓋の左右に分かれて、さらに下方の梨状窩に向かう。食道入口部が喉頭全体が前上方に移動することによって開大し、食塊が食道へ移送される。

 *食塊が食道に入ると食道入口部は閉鎖する。食塊は食道の蠕動運動によって胃まで送られる。

3.脳卒中の嚥下障害

◆「偽性(仮性)球麻痺型」嚥下障害と「球麻痺型」嚥下障害

 *「偽性(仮性)球麻痺型」嚥下障害・・・延髄の嚥下中枢自体に障害なし=咽頭反射は原則として保たれる?(実際は両者の要素をある程度ずつあわせ持つ場合が多い)「球麻痺型」嚥下障害・・・嚥下中枢自体に障害あり=咽頭反射は原則として消失

◆「偽性(仮性)球麻痺型」嚥下障害の特徴・・・在宅の脳卒中患者に多い

 *主として咀嚼(準備期〜口腔期)にかかわる筋肉の協調的な運動が障害されるために起こる障害。口輪筋、舌、咬筋などがスムーズに動かないために、適切な食塊の形成が困難、咀嚼中にも咽頭部に食塊がこぼれ落ちる、咽頭部への食塊の送り込みがぎこちないなどの支障が生じる。

 *以下のふたつの要素も「偽性(仮性)球麻痺型」嚥下障害には大きく関係している。
  A)脳卒中では口腔内や咽頭部の知覚も低下していることも多いので、知覚によるフィードバックが悪いために咀嚼・嚥下に影響が生じる(=「例えば胃カメラの際に喉に麻酔されると、しばらく上手に飲み込めなくなる」・・)。経過に伴う知覚や筋肉の廃用性の要素も含まれる。
  B)延髄の嚥下中枢の働きは、大脳皮質の働きによっても調整されている(=嚥下反射の閾値を調節)ので、嚥下反射の発現のタイミングなどにも実際には障害が起こる。

◆病変の局在からみた「偽性(仮性)球麻痺型」嚥下障害の三型

 (1)皮質・皮質下型:脳の表面に近いところに比較的大きな病変をきたしたケースでは、咀嚼や嚥下の運動が障害されると同時に、合併する高次脳機能障害(失語、失行、失認、痴呆など)が摂食・嚥下に影響している場合が多い。実際の嚥下機能を評価・訓練する以前に、集中力に欠ける、指示が入らない、学習効果がない、食べるための訓練の意義が理解できない・・などの問題点がある。個々の患者の高次機能障害に応じた対応が必要(「会話が通じないのは、失語のためなのか?痴呆のためなのか?」など・・)。
 (2)内包・基底核部型:両側の内包・基底核部の多発性小病変(多発性のラクナ梗塞など・・)による。口部、舌、咽喉頭部などの筋肉を動かしている錐体路(=運動神経)や錐体外路(=運動神経の調節機構)が部分的に障害されるために、咀嚼運動や舌の動きが遅延し、嚥下反射のスピードも落ちる。血管性パーキンソン症候群を伴うことが多く、その場合には動作緩慢、歩行障害、姿勢保持反射の不良などの身体の運動機能障害が見られる。
 (3)脳幹(橋・中脳)型:延髄より上部の脳幹(中脳・橋)の病変で起こる。脳幹は狭い部分に多くの重要な神経組織が存在しているので、比較的小さな病変でも重度の偽性球麻痺を呈しやすい。また、病変が脳神経核や錐体路、小脳などにもおよんで座位保持や実用的な動作が困難なADLレベルの低いケースも少なくない。嚥下中枢に病変がおよんだ場合には球麻痺も要素(嚥下反射自体の障害)も見られる。

◆「球麻痺型」嚥下障害・・・脳幹梗塞の急性期に病院での対応が問題になることが多い

 *嚥下中枢は、脳幹下部の延髄の孤束核から疑核にいたる範囲に幅広く存在する神経(ニューロン)の機能的な集合体。

 *「球麻痺型」嚥下障害では嚥下中枢の病変により嚥下反射が障害される。嚥下反射の惹起不全、口腔・鼻腔の閉鎖不全、咽頭管の収縮不良、舌骨の挙上困難、食道入口部の開大障害などが複合的に原因して重度の嚥下障害を呈する。

 *言語聴覚士(ST)などによる専門的な嚥下訓練を要する場合が多い。

 *延髄外側部の脳梗塞(ワーレンベルグ症候群など)では、嚥下中枢を含む範囲に病変が生じるので嚥下障害を伴いやすい。同時に感覚障害、運動失調、めまいなどの神経症状をきたすことが多く、ADLの障害も高度のことが多い。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)

  回転性目まい

2003年7月2日 神戸新聞 カルテQ&Aより

【問い】

 3年前、鉢を持ち上げ、そこをのぞいた時に、天と地がぐるぐる回るような目まいが30分ほど続き、激しく吐きました。MRI検査では脳の異常はなく、その後は目まいはありませんが、首を動かすとふらつきます。治る方法はありますか?

【答え】

 目まいは、体のバランスを保つ期間である内耳や脳に障害が起こると生じます。感じ方はさまざまですが、この方のようにぐるぐると回るものを回転性目まいといいます。 回転性目まいは、頭を動かしたときに生じる「良性発作性頭位変換性目まい」、発作的に目まいを繰り返し、次第に聴力が低下する「メニエール病」などが代表です。しびれや脱力を伴う脳幹部の血管障害、風邪などをきっかけに目まいが数日続く「前庭神経炎」、「突発性難聴」などおからも生じます。

 質問の女性は、目まいが起こったときの状況や、MRI(磁気共鳴画像装置)検査で異常が無いことなどから、良性発作性頭位変換性目まいと思われます。その後、回転性目まいはないようですので、落ち着いた状態と考えられます。念のため、聴力などの検査を受けるほうがいいでしょう。

 首を動かすとふらつくのは、頚部の筋肉の緊張による頚性目まいが考えられます。治療には筋肉をほぐしたり、血液の流れをよくする薬を使います。漢方薬が効果的な場合もあります。以前の目まいを恐れて無意識のうちに動作がぎこちなくなっているのかもしれません。徐々に体を動かし、適度な運動を心がけてください。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市、つちやま内科クリニック院長)

  延髄外側梗塞と嚥下障害

本稿は、第3回臨床リハビリテーションセミナー(2003年5月24日)での講演要旨です。

つちやま内科クリニック 院長 土山雅人

(1) 延髄の構造と機能

* 延髄:脳幹の一部で、橋から頚髄までの間の約2.5cmの部分。

* 構造:錐体路(大脳からの運動神経)、後索(四肢・体幹からの感覚神経)、脳神経核(三叉神経核の一部、舌咽神経核、迷走神経核、副神経核、舌下神経核)、
延髄網様体(感覚神経からの刺激で意識レベルの制御や自律神経系の植物機能の中枢)、オリーブ核(運動・感覚の刺激を受けて小脳と連絡)など。

* 延髄の脳神経核:運動核と知覚核があり、いずれも舌や咽頭喉頭部の筋肉(球筋)の運動や感覚に関係。

・運動核=疑核(舌咽神経、迷走神経、副神経の一部)、舌下神経核(舌下神経)、迷走神経背側運動核(迷走神経運動枝)など。

・知覚 感覚核=孤束核(舌咽神経、迷走神経、顔面神経の一部)、三叉神経脊髄 路核(三叉神経)など。

* 延髄の自律神経機能:循環、呼吸、消化などの生命活動の維持に関係。体内から刺激が知覚核や延髄網様体で処理されて、運動神経核に伝えられて種々の反射(嚥
下反射、咳反射、嘔吐反射、呼吸・血圧の維持や唾液の分泌・・)。


(2) 嚥下のメカニズムと延髄

* 摂食・嚥下の5段階

1.先行期=食物を認識して、何をどのくらい・どのように食べるかを判断する。

2.準備期=食物を口に取り込み咀嚼し、飲み込みやすい食塊を作る。

3.口腔期=飲み込みやすくなった食塊を咽頭に送り込む。

4.咽頭期=反射運動(嚥下反射)によって食塊を咽頭から食道に送り込む。

5.食道期=食道内の食塊を蠕動運動で胃に送り込む。

* 準備期〜口腔期:口唇、舌や咀嚼筋群などによる随意的な運動。大脳皮質によるコントロールのもとで、口腔内の感覚のフィードバックにより、嚥下に適切な食塊を形成する。

* 嚥下反射:延髄の嚥下中枢の働きで起こる非随意的なパターン運動。

   1)食塊が咽頭・喉頭の粘膜を刺激することで、三叉神経、舌咽神経、迷走神経の知覚線維を介して、求心性の知覚刺激が延髄の孤束核に入力される。          

   2)孤束核から延髄網様体内の嚥下中枢(中枢性パターン形成器central pattern generator:CPG)に中継された知覚入力がある一定量の閾値に達すると、CPGが活動化し嚥下反射が惹起される(嚥下反射はall or noneに発現)。

   3) CPGの活動化により、疑核などにある嚥下に関与する筋群の運動ニューロンが順次駆動(鼻咽腔閉鎖、喉頭挙上、声門閉鎖、咽頭管の蠕動的収縮、食道入口部の開大・・)し、嚥下反射が実行される。また、嚥下反射の間は延髄呼吸中枢も協調して呼吸のリズムは停止し、横隔膜の収縮により胸腔内を陰圧化して食塊の移送を助ける。


(3) 延髄の血管支配と延髄梗塞

* 脳幹部は椎骨脳底動脈系からの血流を受けている。

* 脳幹の血流の灌流領域は、正中領域(median area)、内側領域(paramedianzone)、外側領域(lateral area)、背側領域(dorsal area)の4つに分けられる。

* 延髄背外側部は主に後下小脳動脈の長周辺枝により支配されている。

* 延髄の血管分布にはバリエーション多く、梗塞の広がりや経過に個人差が大きい。

* 嚥下障害をきたす延髄外側部梗塞の二型

  ・Wallenberg症候群(延髄外側症候群):椎骨動脈(あるいは後下小脳動脈)の閉塞により、延髄背側外側部の三叉神経脊髄路、三叉神経脊髄路核、外側脊髄視床路、疑核、孤束核、前庭神経核、下小脳路脚、交感神経下降路などが同時に障害されたもの。患側の顔面感覚障害(三叉神経障害)、反対側の体幹感覚障害(外側脊髄視床路)、患側の軟口蓋・咽頭喉頭の運動麻痺と感覚障害(舌咽神経、迷走神経障害)、回転性めまい(前庭神経障害)、運動失調(下小脳脚の障害)、ホルネル症候群(交感神経下降路の障害)などを呈する。血管分布のバリエーションによって梗塞巣の範囲は様々で、個々の症例に応じて神経症候の組み合わせに多様性がある。

  ・Avellis症候群(延髄中間症候群):後下小脳動脈の分枝(あるいは椎骨動脈)の閉塞により、疑核や孤束核などを中心とした部位が限局して障害されたもの。患側の軟口蓋や咽頭喉頭の運動麻痺と感覚障害(舌咽神経、迷走神経障害)を呈し、嗄声・鼻声・嚥下障害などの臨床症状をきたす。


(4) Wallenberg症候群の神経症候

* 発症初期には60〜70%の高率に嚥下障害を伴うが、その多くは数週間から数ヶ月で改善するとされている。

* MRIにより延髄外側梗塞の広がりを検討した報告では、吻側(口側)の延髄病変では嚥下障害、嗄声、顔面麻痺などがよくみられ、尾側の病変ではめまい、眼振、失調性歩行の頻度が高い。

* 本症の嚥下障害は、疑核や孤束核を中心とした嚥下中枢の損傷により嚥下反射が惹起されないために生じる(「球麻痺」型嚥下障害)。咽頭喉頭部の感覚障害や食道入口部開大不全なども加わり重度の嚥下障害をきたす場合が少なくない。

* 片側性の病変でも嚥下に関与する筋群全体のプログラミングの障害が起こるので、嚥下反射のコントロールに不調が起こるとされている。


(5) 延髄外側部梗塞の2自験例における嚥下障害の経過

* 症例1(日本神経学会第69回近畿地方会、1998)

  ・65歳、男性。突然の頭痛、嘔吐で発症。左顔面と右上下肢のしびれ感が加わり入院。

  運動失調のため歩行は不能。経口摂取不能の重度の嚥下障害を認めた。頭部MRIで延髄左側に梗塞巣を認め、Wallenberg症候群と診断された。経管栄養を行いながら、理学療法および嚥下訓練を続けた。運動失調の改善により、発症3週後には杖歩行が可能、7週後には独歩が可能になった。嚥下障害に関しては、当初の2ヶ月間は不変であったが、歩行状態が安定したころから急速に改善がみられ、発症3ヵ月後には普通食の摂取が可能となった。

* 症例2(兵庫県医師会医学雑誌、45:135−139、2002)

  ・57歳、男性。突然のめまい、嘔吐で発症。数日後にはめまいはなくなり、独歩が可能になった。右側の咽頭喉頭部の運動麻痺と知覚障害を伴う経口摂取不能の重度の嚥下障害が遷延した。頭部MRIで延髄右側に限局的な小梗塞巣を認め、Avellis症候群と診断された。経皮内視鏡的胃瘻造設術が行われ、嚥下訓練が続けられた。発症8ヶ月経過しても嚥下障害に改善はなかった。その後、嚥下機能改善手術(両側輪状咽頭筋切断術、喉頭挙上術、甲状軟骨下顎骨固定術)によって、食道入口部の開大は良好となり、嚥下訓練を続行したところ最終的に経口摂取が可能となった。

(6)多施設共同研究によるWallenberg症候群の嚥下障害の検討

* 阪神間の4病院(ボバース記念病院、済生会中津病院、兵庫県立総合リハビリテーションセンター中央病院、西宮協立脳神経外科病院)で嚥下障害にかかわるSTやPTなどのスタッフによる、多数例(21例)の臨床的検討(第7回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会、2001)。

* まとめ

・Wallenberg症候群における嚥下障害の多くは1ヶ月前後で改善する。

・嚥下障害が遷延するケースでも、回復の兆しが見えた場合には2ヶ月程度で良好な改善が見られる。

・発症後6ヶ月を過ぎても、嚥下機能が改善するケースが存在する。

・嚥下障害の予後予測は困難で、嚥下障害の長期経過例における一律的な対応は難しい。

・Wallenberg症候群の食道入口部開大不全に対するバルーン拡張法の有効性は、確認できなかった。

  外科系のためのパーキンソン病のはなし

本稿は、第206回尼崎市医師会・全外科医会「四水会」(2003年4月23日)での講演要旨です

つちやま内科クリニック 院長 土山雅人

機ゥ僉璽ンソン病(Parkinson´s disease:PD)の概要

1)パーキンソン病とパーキンソン症候群

◆パーキンソン病原著=James Parkinson 「An Essay on Shaking Palsy」(1817) 責任病巣(黒質病変)の判明=Tretiakoff(1919)線条体におけるドパミンの低下= 佐野(1960),Ehringer &Hornykiewicz(1960)

◆パーキンソン病=黒質のドパミン細胞が変性・脱落するために、線条体(黒質-線 条体路)のドパミンが減少して特徴的な運動障害をきたしたもの。脳内のドパミンが 80%以上減少するとパーキンソン症状が出現するとされている。この脳内のドパミン 欠乏状態に対してドパミン補充療法を中心とした薬物治療が行われる。

◆パーキンソン症候群(二次性)=なんらかの原因で線条体・その他の神経組織が障 害されてパーキン症状を呈したもの。脳内のドパミン欠乏ではなく、ドパミン受容体 以後の神経機構に問題があるのでドパミン補充療法は原則として無効。

◆パーキンソン病の特徴   
*本邦での有病率(人口10万人あたりの患者数)は100程度。日本のPD患者数は 約十数万人。 *本邦での発症率(人口10万人あたりの発症患者数)は年間15程度。   *男女比では女性に多い傾向だが、高齢人口の男女比も影響か? *発症年齢は50-60歳代が多い。患者の平均年齢は70歳代と高齢化。   *ほとんどのPDは孤発例だが、一親等(親、兄弟)のPD発症率はcontrolに 比してやや高い。稀に家族性に発症する遺伝的要素の関与したPDの報告もある。今 のところPDの病因としては、いくつかの遺伝的素因になんらかの環境因子が偶然作 用して発症する多因子病と考えられている。    *PDの発症に関わる要素:加齢による神経細胞の脱落。外来物質(合成麻薬に 混入した神経毒MPTPによるPD様症状の発現・・)。PD患者には喫煙者が少ない(ニ コチンはPD発症の防御因子?)。

2)パーキンソン病の診断

◆パーキンソン病の診断は、病歴、臨床症候、ド―パ剤の反応性、他疾患の除外など による。 典型例の診断は比較的容易だが、経過観察によって診断がはじめて確定する場合 もある。   専門医によってPDと診断された患者でも、約20%が剖検で異なった疾患であった とする報告もある(Hughesら,1992)。

◆重症度の評価と公的援助:パーキンソン病は特定疾患(=いわゆる難病)に指定さ れているが、その認定基準は一般にヤール分類慧抂幣紂生活機能障害度凝抂幣紊 中等症から重症とされている。介護保険では重症度と関係なく65歳未満の2号保険者 でも給付の対象となる (いずれも二次性のパーキンソン症候群は含まれず)。また、 状態に応じて身体障害者の認定も考慮する。

◆鑑別診断:二次性パーキンソン症候群、その他の疾患(甲状腺機能低下症、うつ 病、アルツハイマー病・・)。

◆症例呈示:症例は69歳、女性。数ヶ月の経過で無動を主徴とするパーキンソン症状 が進行した。頭部MRIで両側基底核部にガドリニウム増強効果を有する病変を認め、 脳生検でdiffuse B-celllymphomaと判明した。二次性Parkinson症候群の原因のひと つとして脳腫瘍が挙げられているが、その多くは前頭葉穹窿部や蝶形骨稜部に生じた 髄膜腫などの非浸潤性腫瘍によるものであり、基底核部の浸潤性腫瘍に伴った症例の 報告は少ない。

3)パーキンソン病の治療

◆薬物治療:現在本邦で使用できる抗パ剤は6種類。ドーパ剤(一般に、L-Dopa+ ドーパ脱炭酸酵素阻害剤:DCIの合剤を使用)とドパミン受容体刺激剤(ドパミンアゴ ニスト)を主体に用いる。PDでは個々の患者によって症状が異なり(例えば手の振 るえや無動が利き手に起こるか否かで日常生活への影響は異なる)、また生活環境や 社会環境によって要求される治療のレベルも様々。今後の病状の進行などの長期的な 展望を踏まえて、治療計画を考える。

◆リハビリテーション:PD患者は全体的に屈筋群の働きが優位(前屈姿勢・・)な ので、将来的に拘縮を生じないように初期の頃から屈筋群のストレッチが望まれる (パーキンソン病のための体操も何種類か考案されている)。PDでは方向転換や動 作の開始時などに転倒のリスクが高いので、注意する必要がある。

◆脳外科的治療:片側の振戦や筋固縮が強い例や長期のドーパ剤服用による不随意運 動の強い例などに適応。温熱凝固による破壊術と電極植え込みによる刺激術(脳深部 刺激法)とがあり、いずれも保険適応あり。その他に神経細胞移植なども試みられて いる。

◆食事療法:ドーパ剤の作用が不安定になった場合、その効果を高めるために補助的 に食事療法が行われる。高蛋白食により血中の大型中性アミノ酸が増加すると、ドー パ剤の脳への移行が競合的に阻害されるので、1日の摂取蛋白の配分を変更する(朝 昼低蛋白食療法)。酸性飲料(レモンジュースなど)はドーパ剤の腸管からの吸収を 促進する(H2ブロッカーなどの胃酸分泌を阻害する薬剤はドーパ剤の吸収を阻害す る)。

4)長期に経過したパーキンソン病患者の問題点

◆抗パ剤(特にドーパ剤)の投与が5-10年の長期におよぶと、ドパミン神経終末の変 性の進行やドパミン受容体の感受性の変化などにより、高率に新たな運動障害(ジス キネジア、ウエアリング-オフ・・)や精神症状(幻覚、せん妄・・)などの合併症 の出現が見られる。このような長期治療に伴う合併症に対しては、ドーパ剤の分割投 与やドーパ剤以外の抗パ剤の併用などの対応が必要となる。

供ゥ僉璽ンソン病と外科との接点

1)パーキンソン病と嚥下障害

◆パーキンソン病における嚥下障害の特徴として、嚥下の各期にわたって多様な障害 が生じること、原病の重症度とは必ずしも相関しないこと、嚥下障害の自覚に乏しく 「むせのない誤嚥(silent aspiration)」も少なくないこと、低栄養・痩せに関連し ていることなどが指摘されている。また嚥下障害に関わる要因としては、咀嚼や嚥下 に関与する筋の運動障害以外に、咽頭喉頭の固有感覚の障害(感覚入力の低下)や加 齢の影響(粘膜の変性、唾液分泌の減少、喉頭支持の弛緩・・)、薬剤の影響(抗パ 剤の投与量不足、長期投与の副作用・その他の副作用・・)などが挙げられる。ま た、変性疾患や血管障害などによって生じた二次性のパーキンソン症候群では、錐体 外路系以外に錐体路系、小脳系、自律神経系、高次脳機能などの障害が影響している ため、より早期から、より重篤な嚥下障害を伴う可能性がある。

◆症例呈示:パーキンソン病の71歳・男性(ヤール掘法∪条体黒質変性症の69歳・ 女性(ヤール検砲60歳・男性(ヤール検砲離咼妊嚥下造影(VF)による嚥下障害 の実際を紹介する。いずれもParkinsonismに伴う舌の運動障害によって食塊の形成や 送り込みが不良であるなど摂食・嚥下の準備期から口腔期にかけての障害が認めら れ、症例に応じて種々の程度に先行期や咽頭期にも障害がみられた。このうちの1例 については後日、胃瘻(PEG)造設となった。

2)パーキンソン病とイレウス

◆PDでは自律神経障害の一環として消化管運動障害を伴うことが多い。慢性便秘は PD患者の大多数にみられるが、その他にも頻度的には少ないものの重篤な合併症と して巨大結腸や麻痺性イレウス、腸捻転などをきたすことがある。PD初期にみられ る便秘は腸管の機能異常による影響が大きいので抗パ剤に反応することが多いが P Dの経過とともに結腸の拡大や延長などの腸管の器質的異常が生じて抗パ剤の反応性 は乏しくなる。病理学的検討でも腸管のアウエルバッハ神経叢に中枢神経系に出現す るのと同様のレビー小体が認められるなど、腸管神経系にも病的変化が生じることが 報告されている。これらの腸管の器質的な変化が進むと、麻痺性イレウス以外にS状 結腸軸捻などの閉塞性イレウスを起こす危険が高まる。

◆症例呈示:71歳、男性。50歳時に手指振戦、動作緩慢で発症し、近医でPDと診断 され治療開始。51歳時にイレウスで計3回の開腹術を受けているが、その詳細は不 明。60歳時からはS市立病院神経内科に通院し加療されていた。その後もPDの進行 は比較的緩徐で、抗パ剤を適時増量することによりヤール靴両態を維持していた。 この間、66歳時に癒着性イレウスを発症したのを皮切りに、演者が外来主治医であっ た5年弱の間に9回のイレウス(癒着性1回、麻痺性2回、S状結腸軸捻6回)を繰 り返した。その都度イレウスチューブ挿入や大腸ファイバーでの整復などでの対応を 余儀なくされた。その後も同様の状態を繰り返していたが、数年してイレウスに伴う 汎発性腹膜炎で死亡した。

3)抗パ剤の中断と悪性症候群

◆悪性症候群は高熱、意識障害、筋緊張亢進を始めとする錐体外路症状、発汗などの 自律神経症状等々の多彩な症候を呈する重篤な障害である。症例によっては横紋筋融 解症から急性腎不全、播種性血管内凝固症候群をきたし死の転帰をとることもある。 その発症には脳内のドパミン・セロトニン不均衡が注目されており、パーキンソン病 においても急激な抗パ剤の中断による本症の発症例が報告されている。特にパーキン ソン病患者では脱水や感染症が発症の誘因になることが指摘されているので、身体的 に衰弱した状態では抗パ剤の中断に注意する必要がある。長期にわたって抗パ剤の投 与受けているパーキンソン病患者が何らかの原因で薬剤の経口投与が不能になった場 合には、直ちに経管あるいは経静脈的に抗パ剤の継続を図るべきである。 参考資料:日本神経学会による治療ガイドライン:「パーキンソン病治療ガイドライ ン2002」.臨床神経学.42(5),430−494,2002.

  嚥下障害の基礎知識

本稿は、兵庫県保険医協会西宮芦屋支部・第1回在宅医療研究会「嚥下障害」(2003年4月18日)での講演要旨です

つちやま内科クリニック 院長 土山雅人

機ビ覯湿祿欧鮃佑┐襪砲△燭辰董Б秬歐・嚥下の常識?・非常識?≫

◆『毎日食事ができている人には、嚥下障害はない』??

⇒十分な量の食事や水分が適切に摂取できているか。
・臨床の現場で、嚥下障害を疑うポイント
,爐擦襦´⊃事に時間がかかる 食事の好みが変わった た欲低下、脱水症状、体重減少タ後に声が変わる Τ韻籬發多い、時折熱が出る 

◆『特に脳卒中などの既往はないので、嚥下障害はない』??

⇒摂食嚥下機能も運動機能のひとつ。嚥下機能も老化や廃用(=長期の臥床などで、本来活動的である器官が十分使われないためにその機能が衰えること)による障害が起こる。
・加齢による摂食嚥下機能の低下
〇牙の欠損による咀嚼力の低下 嚥下に関与する筋の筋力低下 B単佞慮詐や味覚の低下(→潜在的な亜鉛欠乏の可能性:資料1) す頭の位置が下がり、嚥下反射の際の喉頭挙上が不十分 デ承’縦祺爾砲茲訖牲亠’修料竿姪な不活性化

◆『喉の動きに異常ないので、摂食や嚥下に問題はない』??

⇒嚥下は運動神経の働きだけでなく、口腔や咽喉からの感覚入力や大脳レベルの高次機能によってもコントロールされている。
・例えば、口腔の麻酔をした状態ではうまく食べられない、風邪を引いて臭いがしなくなると食べる気がしない、嫌いなものは努力しないと飲み込めない・・など。

◆『誤嚥すると、むせて咳き込む』??

⇒特に高齢者になると「むせのない誤嚥(silent aspiration)」は稀ではない。
明らかな誤嚥以外にも、気づかないうちに少量の口腔・喉頭の内容物を吸引したり、胃内容物が逆流して肺に流入することもしばしばみられる(micro aspiration)。

◆『誤嚥してしまうと、肺炎になる』??

⇒健常人でも睡眠中などに不顕性誤嚥は生じているが、気道粘膜の線毛運動や咳嗽、免疫機構などの働きによって、通常は肺炎を発症しない。これらの防御機構の低下している場合には肺炎を生じるリスクが高くなる。・嚥下性肺炎の頻度:3000例の高齢者剖検肺の6.7%(松瀬、1997)、189例(60歳以上の入院・外来・施設入所患者)を4年間追跡し41例(21.7%)に嚥下性肺炎(Langmoreら、1998)。
【特殊な嚥下性肺炎】
Mendelson症候群:大量の胃内容物を誤嚥すると、胃液(胃酸)による化学性肺臓炎を生じ、気管支の攣縮や食物残渣による気道閉塞、細菌性肺炎も加わり、重篤な肺炎が起きる。
びまん性嚥下性細気管支炎:少量の誤嚥を頻回に繰り返す患者に稀にみられる。喘鳴や発作性呼吸困難を呈し、気管支喘息との鑑別を要する。胸部レ線で小結節影の散布。

◆『誤嚥がある場合には、食事は止める』??

⇒患者の希望と現実のリスクをどうバランスをとるか?
食べる楽しみ・満足感の喪失⇔低栄養・脱水、誤嚥・窒息のリスク
・個々の患者の条件に応じた柔軟な対応が必要
患者自身の要素:原疾患の性質、障害部位、本人の理解・意欲など患者を取り巻く要素:介護力や支援状況、治療スタッフの能力(評価、治療・・)など

 

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◆摂食・嚥下の5段階

先行期:食物を認識して、何をどのくらい・どのように食べるかを判断する。
⊇猗期:食物を口に取り込み咀嚼し、飲み込みやすい食塊を作る。
8腔期:飲み込みやすくなった食塊を咽頭に送り込む。
ぐ頭期:反射運動(嚥下反射)によって食塊を咽頭から食道に送り込む。
タ道期:食道内の食塊を蠕動運動で胃に送り込む。

◆嚥下の神経機構

・先行期〜準備期〜口腔期は、自分の意志(大脳皮質が関与)で口唇・舌など動かして行う随意運動が主体。口腔粘膜や舌の感覚受容器からのフィードバックにより嚥下に適切な食塊を形成する。
・咽頭期は、食塊が奥舌や咽頭部に到達したことをきっかけに起こる反射運動(嚥下反射)。自分の意思でコントロールできる運動ではない。延髄にある嚥下の中枢性パターン形成器(CPG)の働きにより、嚥下に関与する多数の筋肉が協調的に作用して、食塊を1秒以内に食道に送り込む。
・食道期は、消化管の蠕動運動の一部。

 

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◆ベッドサイドでの評価法 → むせのない誤嚥の存在に注意

・反復唾液のみテスト、水のみテスト、頚部聴診・嚥下音聴診、経皮的動脈血酸素モニター(パルスオキシメーター)など

◆ビデオ嚥下造影(VF:videofluoroscopic examination of swallowing,資料2)・・・ビデオ供覧

・X線透視装置を用いて、造影剤や造影剤入りの検査食を嚥下させた際の口腔・咽頭・食道の動きや造影剤の流れを記録し観察する。特に咽頭期は短時間に複雑な運動が行われるので、ビデオによる解析が有効。
・誤嚥の有無や程度、食塊の残留、嚥下に関連する筋肉の活動状態などを見るだけでなく、安全に食べるための条件(姿 勢、食物形態など)を探る。

◆ビデオ内視鏡検査(VE:videoendosopic examination)

・直径数mmの鼻咽腔用ファバースコープを用いて、検査食の嚥下動態を直視下に観察する。 装置は持ち運び可能なので、ベッドサイドや患者宅などでの検査もできる。

◆重症度の分類

・重症度分類に関連する要素:年齢、全身状態、基礎疾患と障害部位、残存嚥下機能、誤嚥の状態など。
・藤島の分類:1=唾液誤嚥、2=食物誤嚥、3=水分誤嚥、4=機会誤嚥、5=口腔問題、6=軽度問題、7=正常範囲

 

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◆目標レベルの設定

・「誤嚥性肺炎や窒息を起こさず、安全に十分な栄養補給が継続的して行える状態」を目指す。
・患者のQOL(Quality of Life)を踏まえた実現可能な対応を考える。口から食べることに固執することなく、代替栄養法の併用も考慮する。

◆嚥下障害の治療的アプローチ

・嚥下訓練(嚥下リハビリテーション):頚部体幹機能訓練(筋力強化、関節可動域拡大、リラクゼーションなど)や呼吸訓練なども含む。
・外科治療:嚥下機能改善手術(輪状咽頭筋切断術など)、誤嚥防止手術(喉頭摘出術など)。
・歯科的治療:歯科補綴的アプローチ(義歯など)による咀嚼機能の改善、口腔ケアによる口腔内の衛生状態の改善。
・薬物治療:ACE阻害剤やカプサイシンなどによる嚥下反射の活性化の試み。

◆嚥下障害の評価と治療

・先行期の障害:意識レベル、高次脳機能障害、知的障害の改善など。
・準備期の障害:口唇や舌の運動改善、歯科的治療、口腔内の固有感覚の改善など。
・口腔期の障害:舌(特に奥舌)の運動改善、鼻咽腔閉鎖機能の改善、軟口蓋挙上装置など。
・咽頭期の障害:嚥下反射の惹起(アイスマッサージ、チューブ飲み訓練など)。
・食道期の障害:食道入口部の開大(喉頭挙上訓練、バルーン拡張法、機能改善手術など)。

◆代替栄養法

・経管栄養:経鼻胃管(持続的・間欠的)、口腔ネラトン法、胃瘻・腸瘻
・経静脈栄養:中心静脈栄養、末梢静脈栄養

◆日常の注意点

・脱水症に注意:嚥下障害患者は初期から特に水分の飲み込みが困難になることが多い(=さらさらした水はむせやすい) ので、(無意識にも)水分摂取を避ける傾向にある。適時、ゼリーなどの形で水分の補給を考える。

  筋萎縮性側索硬化症(ALS)について

本稿は、第8回尼崎地区摂食嚥下問題勉強会(2003.3.9.)での講演要旨です

つちやま内科クリニック 院長 土山雅人

.ALSの現状

  • ALSは運動神経系を選択的に障害する原因不明の変性疾患。
  • ALSの有病率は人口10万人あたり5−6人(これは脊髄小脳変性症とほぼ同数、ちなみにパーキンソン病は人口10万人あたり100人程度)。男:女=1.5:1。50歳代半ばの発症が多いが、患者層は10歳代後半〜80歳代に広く分布。ほとんどが孤発性(遺伝歴なし)。
  • 西宮市(人口約45万人)でのALS実態調査:平成12年末の時点で特定疾患医療受給者証(総計1800余名)を所持しているALS患者は23名。アンケート調査に応じた19名(在宅18名、入院1名)のうち、痰の吸引が必要=5名、胃瘻造設=4名、気管切開=3名、酸素吸入=2名、人工呼吸器使用=2名、バルーンカテ留置=2名。

. ALSを理解するために

  • 運動神経系には、脳神経系と脊髄神経系があり、いずれも上位ニューロン(ニューロン=1個の神経細胞)と下位ニューロンが連携して成り立っている(上位ニューロンから下位ニューロンに神経の刺激が伝わり、その刺激が筋肉に届いて体の各部の運動が起こる)。
  • 脳神経系:脳(主に脳幹部)から出て、頭部・顔面・咽喉頭部(嚥下に関係する球筋=舌や咽喉の筋肉、を含む)などの働きをコントロールする。脊髄髄神経系:脊髄から出て、上肢・体幹(呼吸に関係する肋間筋などを含む)・下肢の働きをコントロールする。
  • 上位(一次)ニューロン:脳から脳幹部(;脳神経系)あるいは脊髄(;脊髄神経系)まで。下位(二次)ニューロン:脳幹神経核(;脳神経系)あるいは脊髄前角(;脊髄神経系)から筋肉まで。
  上位ニューロン変性 下位ニューロン変性
脳神経系 (1) (2)
脊髄神経系 (3) (4)

・ALSの分類

▼運動ニューロン病(広義のALS)⇒脳神経系あるいは脊髄神経系の、上位または下位ニューロンのいずれかに変性を生じたもの・・・表の(1)and/or(2)and/or(3)and/or(4)

「運動ニューロン病」には以下のものが含まれる
▼ALS(いわゆる『ALS』)⇒脳神経系および脊髄神経系の、上位と下位ニューロンのいずれにも変性を生じたもの・・・(1)and(2)and(3)and(4)


▼進行性球麻痺(PBP)⇒脳神経系の主として二次ニューロンに変性を生じたもの・・・(2)(and/or(1))


▼脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)⇒脊髄神経系の下位ニューロンに変性を生じたもの・・・(4)


▼原発性側索硬化症(PLS)⇒脊髄神経系の上位ニューロンに変性を生じたもの・・・(3)

掘ALSの実際

  • 筋力の低下や筋の萎縮で発症することが多い。多くは一側上肢の遠位部(手・手指)から始まる。 その他、約25%が球症状(多くは構語障害)、約20%が歩行障害で発症する。稀に呼吸筋麻痺による呼吸不全で初発するケースも報告されている。
  • 一肢の遠位部に出現した筋力低下・筋萎縮はしだいに他肢、体幹、舌などに広がり、最終的には四肢麻痺、呼吸麻痺、球麻痺を来たす。
  • 原則として、感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害および褥瘡を生じることはないとされている(四大陰性症状)。知的機能の障害も通常見られない。
  • ALSの診断は、進行性の筋力低下・筋萎縮の存在、特有の神経学的所見・針筋電図所見などを総合的に判断して下される。変形性頚椎症や運動性ニューロパチーなどとの鑑別が必要。
  • 特に有効と言える治療法はない。延命効果を期待して、興奮性アミノ酸の働きを抑えるリルゾール(商品名=リルテック)が用いられている。一部で神経栄養因子などによる治療が試みられている。
  • 自然の経過では、発症から呼吸不全による死亡までは平均3−4年。発症年齢が高齢であることと球麻痺を伴うことは、予後不良の要因。人工呼吸器の普及などにより、最近では発症から10年以上経過している症例も少なくない。
  • 臨床の現場では、運動障害の進行による四肢運動機能の低下(コミュニケーションの機能を含む)、咀嚼嚥下機能の低下(栄養管理;後述)、呼吸機能の低下(呼吸管理;後述)が日々問題となる。

検ケ浜楷浜・呼吸管理

  • 栄養管理の原則:十分量の栄養・水分の補給と安全な気道の確保の両者を考慮。適時、食材や食事量のタイミング、姿勢、補助具の使用などに配慮し、経口摂取の期間を延長する工夫が必要。しかし一方では、球筋の麻痺は進行性のために、経口摂取の限界も見極めなければならない。
  • 栄養障害の評価:体重が以前の10%以上減少した時には栄養障害を疑う(ただしALSでは病状の進行とともに筋萎縮が進行するために判断は難しい場合がある)。呼吸器装着の患者では筋容量や運動量の低下により、必ずしも標準カロリーを必要としない。
  • 呼吸筋(肋間筋など)の筋力低下による呼吸不全は、球麻痺による嚥下障害も増強する。嚥下機能を考える際には呼吸機能にも配慮する必要がある。
  • 呼吸障害の評価:一般に%FVC(%予想努力性肺活量=身長・体重から計算される肺活量の何%あるか?)が、50%を下回るかが補助呼吸導入のひとつの目安。
  • 球麻痺による嚥下障害に対する基本戦略:経口摂取の限界を迎えた場合の対応。
    ◆%FVCが50%以上で、誤嚥しても喀出可能な場合(誤嚥性肺炎のリスクが低い)=胃瘻あるいは経管栄養
    ◆%FVCが50%以下で、喀出する呼気力が弱い場合・重度の球麻痺で誤嚥を繰り返す場合(誤嚥性肺炎のリスクが高い)=胃瘻あるいは経管栄養+気管切開(あるいは気管・食道分離術、喉頭摘出術・・)

后ッ楼茲砲けるALS患者のケアに向けて

  • 地域の医療圏の特性:都市部では一定の面積の中に比較的多数の患者と医療・介護施設が混在。どのような医療資源をどのように組み合わせて対応していくか? 医療・看護と介護・福祉のスムーズな連携。
  • 患者支援の核になる施設は?⇒チームの運営を誰が、どのようにまとめていくか?日々の診療のなかでの各職種間の連絡調整と長期の経過中の状態の変化(症状の進行)に対応できる体制作り。
  • 必要なときに必要な期間入院できる施設の確保⇒入院目的をはっきりさせる(一時的な状態悪化に対する治療か、定期健診か、家族の休息か・・・)。神経疾患の特殊性を理解した入院施設の拡充。
  • 支援チームの技能、知識の向上各職種の専門性をいかした在宅ケアのレベルアップ。神経難病の在宅ホスピスケアの確立。

此セ温融駑(インターネット)

 パーキンソン病と薬のはなし

 本稿は、全国パーキンソン病友の会兵庫県支部・平成14年度「会員・家族交流会」(2002.10.26)での講演内容の要旨です

(1)パーキンソン病の治療にあたって

* パーキンソン病は英国のパーキンソン医師により1817年にはじめて報告された病気です。人口の高齢化とともに増加し、最近では人口10万人に100人の患者さんがいるとされています。


* パーキンソン病では脳の一部(「黒質」と言う部位です)の神経細胞が減ること(「神経の変性)と呼ばれる現象です)によって、脳内の身体を動かすための指令を伝える物質(「神経伝達物質」と呼びます)であるドーパミンが足りなくなります。そのために脳内のドーパミン系とアセチルコリン系の神経系のバランスが乱れます。


* 残念ながら現在の医学では、減ってしまった神経細胞を復活させることはできません。したがって、薬物治療の基本的な考え方としては、不足するドーパミンを補充すること(補充療法)と残されたドーパミン神経系の機能を高めること(機能の賦活)になります。また、一部の薬では神経細胞を守って変性が進みにくくする作用が期待されています。


* パーキンソン病の主要な症状は、体の運動機能の障害です。具体的には、じっとしていると手足が震える(振戦)、無意識に筋肉の緊張が高まる(筋固縮)、動作が全般的に遅くなる(寡動・無動)、体のバランスがとりにくいので歩きにくく転びやすくなる(姿勢保持反射障害)。患者さんによって、これらの症状がすべてそろう場合、いずれかの症状にかたよる場合など様々です(症状の多様性)。


* よくみられる合併症状としては、自律神経系の障害(便秘、排尿障害、発汗異常、起立性低血圧など)、精神系の症状(抑うつ、不眠など)があります。


* また、長期にわたる病気の経過とともにいろいろな問題が生じてくることがあります。これには、ドーパミン系の機能低下が進行するために起こる問題、ドーパミン系以外の脳神経の機能低下によって起こる問題、長期の服薬に伴って起こる問題などがあります。


* パーキンソン病の治療にあたっては、個々の患者さんの問題点を把握することが重要です。パーキンソン病と言っても患者さんによって症状は様々ですし、経過とともに状態は変化します。したがって、患者さん毎の症状の特徴に応じた対応が必要です。さらに個々の患者さんを取り巻く環境への配慮も欠かせません。同じような症状の患者さんであっても、その方々の年齢、仕事内容、家族関係、病気への理解などの条件によっては、治療の目標が異なる場合があります。例えば、50歳代で利き手が震えるパーキンソン病患者さんでは仕事を含めた社会生活が円滑に行えるように考えますし、80歳代で体の動きが鈍くなりしばしば転ぶパーキンソン病患者さんでは安全に家庭で過ごせることを念頭に治療を行います。パーキンソン病の治療とは、患者 さんに応じたオーダーメードの対応(医療・看護・介護・福祉)です。

(2)パーキンソン病の薬の実際

* 現在日本で使われているパーキンソン病に対する主要な薬剤は以下の6種類です。1)ドーパ剤(レボドパ単剤・合剤:マドパー、ネオドパストンなど)、2)ドパミン受容体作動薬(カバサール、ペルマックスなど)、3)ドパミン放出促進薬(シンメトレル)、4)MAO−B阻害薬(マオビー阻害薬:エフピー)、5)抗コリン薬(アーテン、アキネトンなど)、6)ノルアドレアリン補充薬(ドプス)。


* 実際の薬物治療としては、患者さんの必要度に応じて、長期的な展望にたって種々の作用機序の薬を組み合わせて(「多剤併用療法」と呼びます)使います。原則として比較的年齢の若い人(55−60歳以下)ではドパミン受容体刺激剤を主体に、高齢の人(例えば65−70歳以上)ではドーパ剤(レボドパ)を主体に考えます。 


* 上記以外にもパーキンソン病の一部の症状に対する補助的な治療薬が使われることがあります。すなわち、震えに対してベータブロッカーやクロナゼパムなど、吐き気に対してドンペリドンなど、便秘に対して各種下剤、体の異常な動き(特有の不随意運動)に対してチアプライドなど、うつ的な状態に対して各種抗うつ剤などが用いられます。

(3)パーキンソン病の薬の注意

* 薬物療法に伴って種々の副作用が報告されていますが、それぞれ対応ができます。患者さんの独自の判断で薬の飲み方を変えたり中止することなく、不明の点は神経内科の専門医にご相談ください。


* 薬物治療の初期にみられる副作用には、吐き気や食欲の低下などの消化器症状があります。これらの症状は自然に治まってくることが多いのであまり心配はいりません。必要に応じて吐き気止めや胃薬を併用します。


* 薬物治療を始めて数年から十年近く過ぎると、ドーパミン神経系の変化のために抗パーキンソン病薬の効き方が悪くなる場合(ウエアリング・オフ現象)があります。また特有の不随意運動(後述)を起こすこともあります。これは特に発病の初期から大量のドーパ剤を飲んでいるケースに多いようです。ドーパ剤は合剤で300mg/日を目安にします、特に理由がない限り600mg/日を超えない方が良いとされています。このような長期服用に伴う副作用に対しては、ドーパ剤の飲み方を変えたり(少量頻回投与)、薬の種類を変えたりして対応します。胃酸が少ないとドーパ剤の吸収が悪いので胃薬(制酸剤)の注意やひとによっては食事の蛋白質が多いとドーパ剤の効きが悪くなることがあるので食事の工夫(朝・昼食の蛋白質制限)なども考慮します。(特有の不随意運動とは、体がクネクネと動くジスキネジアや一部の筋肉がこわばるジストニアなどです)


* 高齢者や脳萎縮を合併した患者さんでは、幻覚や妄想、痴呆などの精神症状がみられることがあります。この場合は抗パーキンソン病薬の減量(抗コリン剤→ドパミン放出促進薬→MAO−B阻害薬・ドパミン受容体作動薬→ドーパ剤の順)、抗精神薬の併用を考えます。また適時、頭部CTなどで脳の変化を確認しておくのもよいでしょう。


* 薬物治療で忘れてはならないものに「悪性症候群」があります。これは長期にドーパ剤などの抗パーキンソン病薬を飲んでいる患者さんが急に薬を中断した時に、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れて高熱や意識障害が起こる状態です。特に夏場で水分摂取が少ない状態(脱水症状)や風邪をこじらせて体調が悪い時などは注意する必要があります。

(4)おわりに

*パーキンソン病はある時点で完治する病気ではなく、生涯付き合っていく病気です。病気とのうまい付き合いをするには、病気の本質や治療の内容を患者さんも学ぶ必要があると思います。『彼を知り己を知れば、百戦殆(あやう)からず』の言葉を忘れないようにしましょう。

  めまいに ついて

本稿は、第9回プライマリー漢方研究会(2002.10.16,尼崎)での発表内容の要旨です。

つちやま内科クリニック 院長 土山雅人

(1)めまいの病態

  • めまいとは、自分または周囲のものが動いていないにもかかわらず、動いているかのように感じる錯感覚あるいは異常感覚で、空間における身体の位置や姿勢に関する見当識(空間識)の破綻した状態。
  • 身体のバランス保持(平衡機能の維持)には、視覚や前庭覚、深部覚(関節覚や振動覚など)の感覚入力とそれらの感覚情報と運動機能を調節する働きが必要。これらの機能が障害されると、姿勢の保持や円滑な運動が行えなくなり、めまい(感)を自覚する。
  • めまいは、「天井がグルグル回る」ような回転性めまい(vertigo)、「身体がふらふらする」ような非回転性めまい(dizziness)、「気が遠くなる」ような失神型めまい(syncope,faintness)に分けられる。これらは以下に述べるようにそれぞれ考えるべき病態が異なるので、患者さんの訴える『めまい』がどれに当てはまるか聞き出すことが肝要。
  • 回転性めまい(vertigo)=眼振の自覚症状。周囲の景色や自分自身が回転するように感じたり、身体が上下左右に動く、壁が傾くように感じるもの。何らかの障害が急激に片側性に生じた際に起こる。一般的には末梢前庭性疾患が多く、一部に中枢性(小脳、脳幹など)もある。安静時に起こるものにはメニエール病、前庭神経炎などがあり、頭位変換や頚部の動きに伴って起こるものには良性発作性頭位眩暈症(BPPV:後述)、椎骨脳底動脈循環不全などがある。
  • 非回転性めまい(dizziness)=宙に浮いたように感じたり、船に乗って揺れているように感じるもの。両側性の前庭障害、急性障害の回復期などに起こる。
  • 失神型めまい(syncope,faintness)=眼の前が暗くなったり(眼前暗黒感)、気が遠くなるように感じるもの。一過性の意識消失(失神)を来たすこともある。脳循環不全、心疾患(不整脈)、起立性低血圧などで起こる。
  • プライマリ・ケアで診ためまい患者の分析(Kroenkeら, 1992)の紹介。
    めまい患者総数134例中、

    [1]:2週間後めまいが消失あるいは著明に改善したものは32例。
    ・脱水25%、前庭障害12%、上気道炎9%、不安9%、薬剤5%、不明33%。

    [2]:2週間後に改善していなかったものは100例(平均年齢63歳・女性60%)。
    ・回転性めまい(vertigo)=54%(BPPV16%、メニエール病4%、前庭神経炎3%、その他の末梢性前庭疾患10%、中枢性前庭疾患10%)。
    ・非回転性めまい(sensation of imbalance,dizziness)=2%。
    ・失神型めまい(syncope,faintness)=6%(起立性低血圧4%)。
    ・その他は、精神疾患16%、過換気症候群1%、不明8%、複数の原因によるもの13%

    [3]:非改善100例の1年後の状態は、半数以上が症状改善し、致死例はなかった。 

(2)めまいの診察

  • 回転性めまい(vertigo)が否か?
    ・vertigoの鑑別診断:危険なめまいを見逃さない
    ・眼振の観察(frenzelの眼鏡):自発眼振、注視眼振、頭位変換性眼振・・・
    ・閉眼足踏み試験で(潜在性の)前庭障害
  • 失調症状は?:小脳性失調、感覚性失調(下肢感覚障害性、脊髄後索性)・指鼻試験、Romberg徴候・・
  • 他の神経学的所見は?:言語・嚥下障害、複視、運動麻痺、知覚障害・・・、聴力は?
  • 血圧(座位・臥位と起立位)、脈拍、脱水の有無・・・

(3)良性発作性頭位眩暈症について
(Benign Paroxysmal Positioning Vertigo ;BPPV、頭位性めまい症)

  • 日常診療で遭遇するめまいの中で最も多い。
  • 特徴:
    1)頭位の変換によって誘発される回転性めまい(=主として回旋性眼振を呈する)
    2)めまいの持続時間は短く、30秒以内(どんなに長くても1分以内)に治まる
    3)頭位の変換からめまいの出現まで数秒程度の潜時(タイムラグ)がある  
    4)めまいを生じる頭位を繰り返しとると、症状は軽くなる(慣れの現象)
    5)起き上がったときと臥位のときでは眼振の方向が反対になる(方向交代性)
    6)耳鳴や難聴は伴わない
  • 最近は内耳の卵形嚢内の耳石が三半規管のなかの後半規管に迷入して発症するとの説が言われている。
  • 治療:対症療法が主体で基本的に自然寛解率は100%近い。理学療法(エプリー法)が注目されている。

(4)その他のめまい・危険なめまい

  • 前庭神経炎:若い世代に多い、急性に発症する聴力の障害を伴わない回転性めまい(片側性の前庭機能の障害)。めまいは数日から数週程度が続くので入院での加療が望ましい。ウイルス感染に関連して生じることが多いとされている。
  • メニエール病:20−30歳代の若い世代で発症することが多く、嘔吐を伴うような激 しい回転性めまいの発作を数ヶ月から数年毎に繰り返す。発作に際して耳鳴り、難聴 を伴う。長い経過のうちに徐々に聴力は低下していく。内耳の内リンパ液の還流に障害があるとされている。
  • 悪性持続性頭位眩暈症 (malignant persistent positional vertigo: MPPV):ある一定の頭位で回転性めまいが誘発され、その頭位を保つ限りめまいは持続するが、他の頭位に変えると消失する。原因の多くは脳幹・小脳の血管障害なので要注意。
  • その他のめまいの原因:神経血管圧迫症候群、てんかん、聴神経腫瘍、頚椎症など・・・

(5)めまいと心の病気

  • 米国のめまい統計では、診療科を問わず精神疾患(うつ病、パニック症候群、身体化障害など)が10−20%含まれている。めまい患者の精神的サポートの重要性が強調されている。
  • 理学療法は、このような患者が自分の病態の受容に役立つことがある。
  • めまい症状が慢性的に続く場合には、症例によっては積極的な精神療法、行動療法が望まれる。

(6)めまいと薬剤

  • 回転性めまいに対する薬には、主として1)前庭系の働きを抑制するもの、2)前庭系の機能の代償に作用するもの、3)めまいの二次的な症状(悪心・嘔吐、不安・・・)を緩和するものがある。
  • 前庭の機能を抑制する薬剤(抗不安薬や抗うつ薬・・)は、前庭機能の代償を遅らせて治癒を遷延させる可能性もある。これらの薬の長期使用には十分な配慮が必要
  • 本邦でめまいに対してよく用いられる「メイロン」は、臨床レベルで有効性を証明した報告は見あたらない。

 脊髄小脳変性症

 2002年3月13日 神戸新聞 カルテQ&Aより(一部改変)


(問い)


1年ほど前から、63歳の夫の足元がふらついたり言葉がもつれたりしています。検査の結果。脊髄(せきずい)小脳変性症と言われましたが、どんな病気でしょうか?

(答え)


脊髄小脳変性症は、脊髄や小脳など中枢神経の神経細胞がだんだん少なくなってしまう病気です。十万人に5〜10人と頻度は比較的まれで、年代別では中年以降に多く見られます。

小脳はいろいろな運動をスムーズにさせる働きを担っており、この病気では運動失調が基本的な症状として表れてきます。
例えば、起き上がったり歩く際にバランスがとれず、ふらついたり転びそうになる、字を書く時に力の加減ができず手が震えるなどです。口やのどの動きが悪くなると舌がもつれて話しにくい、食事がしにくいなどの障害も表れます。
これらは各部位の筋肉が滑らかに動かせなくなるために起こる症状で、脳卒中などによる筋肉に力が入らなくなる運動麻痺(まひ)とは異なります。自律神経系に影響が及ぶと、起立性の低血圧や排尿の障害などが起こることもあります。
この病気そのものが命にかかわることは、あまりありません。いくつかのタイプがあり、数年で寝たきり状態にまで進むものもあれば、十数年ふらつき程度の障害でとどまる場合もあります。遺伝性では10〜20代と早期に症状が表れることがあります。

さて診断ですが、ふらつきや震えの原因が運動失調によるかどうかは、神経内科の専門医が診ればほど判断できます。小脳や脳幹部の変化を見るためにはMRIなど画像検査も行いますが、初期では目立たないこともあります。内科的な病気でも似たような症状があるため、全身的な検査が必要となることもあります。
家族歴を調べ、遺伝性の可能性もあれば遺伝子診断も可能です。しかし根本的な治療の難しい現状では、どこまで調べるべきか議論の分かれるところでしょう。
神経が消えていくという原因そのものは、現在のところ止められません。今、認められているのは失調症状をある程度軽くする飲み薬です。約2割の患者さんで症状が改善されています。

さらに起立性定血圧であれば昇圧剤、排尿障害ならぼうこう機能のための薬と、個々の症状に合わせた治療を行っていきます。
症状の悪化を防ぎ、現状を維持するためにはリハビリも大切です。ふらつきでは、足元におもりを付けると安定することがあり、筋力を保つ点からも有用です。
動きにくいからと筋肉を使わないでいると、筋力が衰えてさらに動きにくくなります。
可能な範囲で体を使うよう心がけるともに、理学療法士や作業療法士ら専門家からリハビリの方法を学ぶことをお勧めします。
この病気は厚生労働省の特定疾患に当てはまります。各自治体の窓口で手続きを行えば、医療費補助や介護保険などの制度をを利用できます。担当の職員らとよく相談し、普段のケアに取り入れることも必要でしょう。

(兵庫県医師会、土山雅人=西宮市つちやま内科クリニック院長)

 
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